ハミルトン 名称不明の稀少モデル 白い文字盤の小さなドレス・ウォッチ 17石手巻 アメリカ製 1956 - 58年頃

Hamilton, model name unknown, cal. 780, 17 jewels



 1956 - 58年頃にハミルトン社が発売した女性用ドレス・ウォッチ。一円玉よりも小さなサイズの愛らしい時計ですが、ハイ・ジュエルの手巻ムーヴメント「ハミルトン キャリバー 780」を搭載しています。「ムーヴメント」というのは、時計内部の機械のことです。

 かつてアメリカ合衆国の時計産業はスイス時計を凌ぐ品質で知られましたが、その到達点ともいえるのが、本品をはじめとする最終世代のアメリカ製ハミルトンです。





 本品は現代の時計のような「クォーツ式」ではなく、ぜんまいで動く「機械式」です。電池で動くクォーツ式時計は 1970年代から使われ始めます。本品が製作された 1950年代には、クォーツ式腕時計はまだ存在していませんでした。

 秒針があるクォーツ式時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとに「チッ」、「チッ」、「チッ」 … と聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。本品のような機械式時計を耳に当てると、小人が鈴を振っているような小さく可愛らしい音が、「チクタクチクタクチクタク…」と連続して聞こえてきます。





 1950年代の時計と現代の時計を比べると、動く仕組みが異なるだけでなく、サイズの点でも大きく異なります。1930年代から 1970年代までは男性用、女性用ともに現代よりも小さな時計が流行していました。特に本品は一円硬貨よりも小さなサイズです。大きな機械を作るよりも、小さな機械を作る方が難しいですから、小さな女性用時計は男性用時計を凌(しの)ぐ高度な技術で制作されています。


 本品のムーヴメントを一円硬貨に載せて撮影


 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)を「ケース」(英 case)といいます。本品のケースはロールド・ゴールド・プレートで、裏蓋は丈夫なステンレス・スティール製です。「ロールド・ゴールド・プレート」とは板状の金をベース・メタルに張り付けたもので、現代の金めっき(エレクトロ・プレート)に比べると、金の厚みは十数倍ないし数十倍に達します。金の層が厚いため、摩耗に強く、見た目にも高級感があります。本品のケースに張られている金は 10カラット・ゴールド(純度 10/24のゴールド)で、十八金に比べて金そのものの強度が格段に強く、色の点でも淡く上品なシャンパン・ゴールドをしています。





 時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を「文字盤」、文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスは 12時と 6時がアラビア数字、それ以外が棒状の「バー・インデックス」です。本品のインデックスは文字盤よりも一段高くなった「立体インデックス」で、金色の小さな部品を植字しています。

 本品の文字盤は白色で、「ハミルトン」のロゴ (HAMILTON) と、"H" を模(かたど)ったハミルトン社のマークが、黒で描かれています。六十年近く前の品物であるにもかかわらず、文字盤は綺麗な状態で、ひどい変色等はありません。この文字盤は再生(リファービッシュ、リダン)したものではなく、時計が製作された当時のオリジナルです。

 金色の針はすっきりとした「バトン型」で、シンプルなバー・インデックスによく似合っています。この時代の女性用時計に秒針はありません。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)といいます。本品のムーヴメントは電池ではなくぜんまいで動いています。本品のようにぜんまいで動く時計を「機械式時計」といいます。良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはモース硬度「9」と非常に硬い鉱物(コランダム Al2O3)ですので、高級時計の部品として使用されるのです。必要な部分すべてにルビーを入れると、「17石」(じゅうななせき)のムーヴメントになります。17石のムーヴメントは「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれ、高精度、長寿命の高級機です。

 上の写真は本品のムーヴメント、「ハミルトン キャリバー 780」です。赤く写っているのがルビーで、5個しか入っていないように見えますが、この写真に写っていない文字盤下の地板やムーヴメントの内部に入っていたり、箇所によって二重に入っていたりして、全部で17個のルビ-が使われています。

 本品のムーヴメントには「セヴンティーン・ジュエルズ」(17 SEVENTEEN JEWELS 17石)、「アメリカ合衆国」(U.S.A.)、「ハミルトン」(HAMILTON)、"780" の刻印があります。"780" はムーヴメントの機種名(キャリバー名)です。「ハミルトン キャリバー 780」はハミルトン社がペンシルヴェニア州ランカスターの自社工場で製作した手巻ムーヴメントです。「キャリバー780」の大きさは一円硬貨よりもずっと小さな「21/0サイズ」ですが、振り子の役割をする「天符(てんぷ)」は一秒間に二往復半し(振動数 f = 18000 A/h)、十分な計時性能を確保しています。パワー・リザーヴ(ぜんまいをいっぱいに巻き上げて駆動する時間)は 39時間です。







 上の写真の一枚目は針と文字盤を外して地板側を撮影したものです。さらに二枚目の写真は、筒車(つつぐるま)と筒カナを取り外して撮影しています。二枚目の写真を見れば分かるように、「ハミルトン キャリバー 780」は二番車の受け側のみならず、地板側にもルビーの穴石を使っています。

 本品と同時代に制作されたヨーロッパ仕様のスイス時計であれば、回転が遅い二番車には穴石を使わないのが普通です。特に地板側の穴石は、ぜんまいの力が強い懐中時計や男性用腕時計であっても、多くの場合に省略されます。ところが「ハミルトン キャリバー 780」は、ぜんまいの力が弱い女性用時計であるにもかかわらず、二番車の受け側だけでなく地板側にもきちんとルビーを入れており、「一生もの」として使える品質を確保しています。


 ハミルトンの広告 1956年


 第二次世界大戦前の世界では、アメリカ、ヨーロッパ、日本が時計製造国でしたが、アメリカとヨーロッパを比較すると、アメリカの時計の品質は後者をはるかに凌いでいました。そのためスイス製の時計はアメリカ市場に食い込むことができませんでした。

 しかしながらアメリカの時計産業は太平洋戦争をきっかけに衰退してしまいます。1892年にペンシルヴェニア州ランカスターで創業し、数々の名作ムーヴメントを世に送り出したハミルトンも、1969年には自社工場でのムーヴメント生産を完全に停止します。

 ハミルトン社はムーヴメントを自社生産した最後の十数年間に、男性用、女性用の優れたムーヴメントを次々に生み出しました。本機「キャリバー 780」もそのうちのひとつです。もしも日米が開戦せず、ハミルトン社の時計作りがそのまま継続していれば、「キャリバー 780」の血を受け継ぐ名機が生み出されたであろうと考えると残念でなりません。





 当店は数少ないアンティーク時計の修理対応店です。アンティーク時計はどこの店でも原則的に「現状売り」で、壊れても修理が困難ですが、アンティークアナスタシア店主にはアンティーク時計に関する十分な専門知識があり、部品も豊富に揃っているため、他店で不可能な修理に対応できます。デリケートなイメージのアンティーク時計ですが、日常使用は十分に可能です。

 バンドの種類の変更も可能です。商品写真は金属製バンドを取り付けて撮影しましたが、コード・バンド(黒い紐のバンド)に替えると、小さな時計がよく目立っていっそう可愛らしく、また高級感もあります。バンド交換は無料で承ります。

 この時計は当時の箱と組み合わせることもできます。箱は別売りですが、時計をお買い上げいただいた方には割引価格にてご提供いたします。下の写真は当時の箱のひとつです。







 どのようなモデルであれ、アンティーク時計、ヴィンテージ時計はまったく同じ物を見つけるのが困難です。それゆえ大抵のアンティーク時計は、現在では「一点もの」になっていると言えます。しかしながら多くの時計に接する専門業者の眼で見ると、ほとんどのモデルは「ありがち」なデザインです。時計は皆が必要とする必需品であり、流行のデザインに従って大量に供給される以上、同じようなデザインのものが多くなるのは仕方がないことといえます。

 ところが本品は非常に珍しいデザインです。私は 1950年代のハミルトン社の広告資料を網羅的に集めており、本品のモデル名を確かめようとしていろいろと調べたのですが、特定には至りませんでした。当時盛んに宣伝されたモデルは数多く販売されたはずであり、現在でも見つけることができますが、本品はわずかな数しか作られなかったらしく、同業者の誰よりも多く女性用アンティーク時計を見てきたはずの私自身、初めて目にします。


 稀少性はアンティーク時計の魅力のひとつですが、このハミルトンは時計としての性能(ムーヴメントの性能)も非常に優れています。また珍しすぎて部品が手に入らず修理ができないのであれば困りものですが、当店にはムーヴメントの部品とともに、クリスタル(風防)やバンド、竜頭(りゅうず)なども在庫しています。

 時計は無料でオーバーホール(分解掃除)をした後にお渡しいたします。お買い上げ後も期限を切らずに修理に対応しますので、日々気軽にご愛用いただけます。どうぞ安心してお買い上げくださいませ。

 お支払方法は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 90,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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