稀少品 ブローバ 赤色秒針付ナース・ウォッチ キャリバー 6CAC 17石 1955年


 1955年に製作された秒針付時計。上品な金色のケースに銀白色の半艶消し文字盤、金色の立体インデックスを採用した小さな女性用時計で、17石の高級手巻ムーヴメント「ブローバ キャリバー 6CAC」が搭載されています。「ムーヴメント」というのは、時計内部の機械のことです。





 本品は現代の時計のような「クォーツ式」ではなく、ぜんまいで動く「機械式」です。電池で動くクォーツ式腕時計は 1969年にセイコーが初めて実用化し、1970年代から普及し始めます。本品が製作された 1955年には、クォーツ式腕時計はまだ存在しませんでした。

 秒針があるクォーツ式時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとに「チッ」、「チッ」、「チッ」 … と聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。本品のような機械式時計を耳に当てると、小人が鈴を振っているような小さく可愛らしい音が、「チクタクチクタクチクタク…」と連続して聞こえてきます。





 1950年代の時計と現代の時計を比べると、動く仕組みが異なるだけでなく、サイズの点でも大きく異なります。1930年代から 1970年代までは男性用、女性用ともに現代よりも小さな時計が流行しており、特に女性用時計は一円硬貨よりも小さなサイズです。機械は大きく作るよりも小さく作る方がずっと困難です。昔の女性用時計は非常に高度な技術を持つ時計師が制作したものであることがわかります。

 本品のデザインはアール・デコ様式に拠っています。「アール・デコ」(art déco フランス語で「装飾美術」の意)とは 1920年代から 1950年代にかけて流行した美術工芸及び建築の様式で、幾何学図形を多用し、飽きの来ないすっきりとしたデザインが特徴です。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)を「ケース」(英 case)といいます。本品のケースはロールド・ゴールド・プレートで、裏蓋は丈夫なステンレス・スティール製です。「ロールド・ゴールド・プレート」とは板状の金をベース・メタルに張り付けたもので、現代の金めっき(エレクトロ・プレート)に比べると、金の厚みは十数倍ないし数十倍に達します。金の層が厚いため、摩耗に強く、見た目にも高級感があります。本品のケースに張られている金は 10カラット・ゴールド(純度 10/24のゴールド)で、十八金に比べて金そのものの強度が格段に強く、色の点でも淡く上品なシャンパン・ゴールドをしています。




 上の写真で白っぽく写っている部分(数字がある板状の部品)を「文字盤」、文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスは「ブレゲ数字」と呼ばれる優雅な斜体字で、光を反射し、ケースと同色の明るい金色に輝きます。インデックスの外側には一分あるいは一秒ごとに黒色の目盛が刻まれています。

 ブレゲ数字のインデックスは、文字盤に書かれているのではなく、文字盤よりも一段高くなった「立体インデックス」です。1960年代から現代に至るまで、インデックスや時計メーカーのロゴマークなど、一部が立体的になった文字盤は、平坦な文字盤に別作の部品を植字して作るのが普通です。ところが本品の立体インデックスは植字ではなく、文字盤に浮き彫りにされています。時計職人の手作りに近い高級品であった1950年代の時計と、大量生産品として効率よく生産された後の時代の時計の違いは、このようなところにも表れています。


 本品の文字盤は優雅なカーヴを描いて中央部が高くなっています。たいへん綺麗な状態ですが、再生(リファービッシュ、リダン)したものではなく、時計が製作された当時のオリジナルです。よく使われた時計の場合、ケースを開けて文字盤を見ると、周辺部分(ケースと接する部分)が傷んでいるのが普通です。しかしながら本品の文字盤に傷みはほとんどありません。したがってこの時計はあまり使われず、大切に保管されていたようです。

 針はこの時代の時計によく見られる「モダン型」で、ケース及びインデックスと同じく明るい金色に輝いています。針の状態は良好で、錆(さび)や破損など特筆すべき問題はありません。





 本品の大きな特徴は、時計の中心に秒針を取り付けた「センター・セカンド式」であることです。

 現代人は「センター・セカンド式」の時計を見慣れていて、時計の真ん中に秒針が付いているのは当たり前と思っていますが、時計の真ん中に秒針を付けるのは、実はたいへん難しいことです。それゆえ 1950年代までのアンティーク時計は「センター・セカンド式」ではなく、6時の位置に小さな秒針を取り付けた「スモール・セカンド式」であるのが普通です。また女性用時計は文字盤が小さいので、6時の位置にスモール・セカンド針を取り付けても、小さすぎてよく見えません。それゆえ女性用アンティーク時計のほとんどには秒針がありません。

 現代の時計は「センター・セカンド式」で、秒針が大きく見易いので、腕時計を使って秒単位の時間を計ったり、一分間を正確に計ったりできます。これに対してアンティーク時計の時代は、女性用時計には秒針が無く、男性用時計もスモール・セカンド式で秒針を見にくいので、秒単位の時間を計ったり、一分間を正確に計ったりする場合、ストップウォッチを使いました。医師や看護師、技師、軍人など、秒単位の計測が必要な人たちは、みなストップウオッチを持っていました。

 しかしながら、古い時代にもごく稀に、ストップウォッチを兼用する「センター・セカンド式」の腕時計があり、上記のような職業の人たちに使われていました。いまは腕時計に秒針があるのが当たり前で、現代人は意識して秒針を見ることがほとんどありません。しかしながら古い時代の「センター・セカンド式」腕時計の秒針は、仕事で秒針を使う人のために取り付けられていたので、秒針自体を赤く塗ったり、秒針の先に赤いポインタを付けて、視認性を高めていました。本品もそのような時計のひとつで、秒針を赤く塗るとともに、文字盤の周囲に一秒毎の目盛を描いています。

 「センター・セカンド式」の女性用時計は当時看護師によく使われたため、このようなアンティーク時計は「ナース・ウォッチ」と呼ばれています。本品の元の持ち主が実際に看護師であったかどうかはわかりませんが、いずれにせよ、真っ赤な秒針と半艶消しの銀白色文字盤の組み合わせは見た目に可愛らしいだけでなく、正確な計時と高い視認性の確保にも役立っています。





 1930年代から1950年代頃までの女性用時計には、アーチ状に盛り上がったクリスタル(風防)が流行していました。特に「センター・セカンド式」の本品は、時針、分針の上に秒針が取り付けられているため、秒針がクリスタルに接触せずに動けるように、「ハイ・ドーム」(英 high dome)と呼ばれる全体的に背が高いクリスタルを採用しています。クリスタルは良好な状態で、欠損や罅(ひび)など特筆すべき問題は何もありません。

 ぜんまいを巻いたり時刻を合わせたりする際のツマミを、竜頭(りゅうず)といいます。アンティーク時計は毎日ぜんまいを巻く必要がありますので、竜頭が摩耗しやすいですが、ほとんど使われていなかった本品の竜頭は、新品同様の良好な状態です。竜頭にはブローバのロゴ (BULOVA) が刻印されています。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)といいます。本品のムーヴメントは電池ではなくぜんまいで動いています。本品のようにぜんまいで動く時計を「機械式時計」といいます。良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはモース硬度「9」と非常に硬い鉱物(コランダム Al2O3)ですので、高級時計の部品として使用されるのです。必要な部分すべてにルビーを入れると、「17石」(じゅうななせき)のムーヴメントになります。

 17石のムーヴメントは「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれ、高精度、長寿命の高級機です。本品のムーヴメントには「セヴンティーン・ジュエルズ」(17 SEVENTEEN JEWELS 17石)、「スイス」(SWISS スイス製)、「ブローバ・ウォッチ・カンパニー」(BULOVA WATCH Co. ブローバ時計会社)等の刻印があります。"L5" の刻印はブローバ社のデイト・コード (date code) で、このムーヴメントが1955年に製作されたことを示します。"6CAC" はムーヴメントの機種名(キャリバー名)です。「ブローバ キャリバー 6CAC」は、スイスのオロール=ヴィルレ社(またはベルノワーズ社 Fabrique d'ébauches Bernoises S.A. établissement AURORE Villeret)の「キャリバー 123」を元に制作した機械で、6.75 x 8 リーニュ、毎時 18,000振動 (f = 18000 A/h)、パワー・リザーヴ 40時間の手巻きムーヴメントです。

 オロール=ヴィルレ社はエボーシュ(ébauche フランス語で「素地」「下描き」等の意)の専門メーカーで、ブローバ社はこの会社からエボーシュ(ムーヴメントの半完成品)を買って調速脱進機を取り付け、多くの優れたムーヴメントを製作していました。「ブローバ キャリバー 6CAC」もそのようなムーヴメントのひとつです。

 本品のように「センター・セカンド式」の女性用腕時計は稀少品ですが、ブローバ社は自社のキャリバー間で部品をできるだけ共通化し、互換性を高めた時計メーカーで、「ブローバ キャリバー 6CAC」も他のブローバ社製ムーヴメントと多数の共通部品を持っています。当店は女性用アンティーク時計の修理に対応するために、オロール=ヴィルレ社やブローバ社の部品も多数保有しており、メンテナンスの点でもご安心いただけます。「一点もの」の贅沢を手軽に楽しめるのがアンティーク時計の魅力ですが、あまりにも珍しいムーヴメントは部品が手に入りにくいため、修理に支障をきたします。本品のようにデザインが稀少でありつつ、ムーヴメントの部品が多くの時計と共通する機種は、アンティーク時計のなかでも最も安心して「一点もの」を楽しむことができます。





 上の写真は本品のムーヴメントを一円硬貨の上に置いています。ムーヴメント内のいちばん左に写っている銀色の環は「天符」(てんぷ)という部品で、振子(ふりこ)の役割をします。いまは撮影のために止めていますが、時計が動いているとき、「ブローバ キャリバー 6CAC」の天符は一時間に 9,000回、往復するように回転します。天符に取り付けられている金色の「チラネジ」は、天符が均等に振れるように重さを調整するための部品です。チラネジの径は、大きな頭の部分で測っても 0.4ミリメートルほどしかありません。ルビーの数は写真では五個しか見えませんが、ムーヴメントの内部や裏側(文字盤側)を含めて、全部で17個が使用されています。

 現代ではコンピュータ制御の産業ロボットを使って微細な加工ができますが、1955年当時はすべての精密加工が人の手によるものでした。千分の一ミリメートルの精度で百個近くの部品を作り、これを組み立ててひとつの時計が完成します。1950年代の女性用時計は一円硬貨よりも小さなサイズですから、男性用時計よりもさらに高度な技術で制作されています。1950年代当時、本品の価格は初任給の三か月分以上に相当したはずです。現在の貨幣価値に換算すれば、50万円か 60万円位でしょうか。良質の時計はたいへん高価であったわけですが、しかしながらこれは空虚な「ブランド代」ではなくて、「一生もの」と呼べるだけの内実、実質的価値を伴っていました。ムーヴメントにルビー製部品を多用するのも、優れた耐久性と長寿命を確保するためです。上述のように、本品はほとんど使われないままに保管されていた品物ですので、これから先も長い年月に亙ってご愛用いただけます。

 当店には「ブローバ キャリバー 6CAC」をはじめ、アンティーク時計の部品が豊富に在庫しています。アンティーク時計はどこの店でも原則的に「現状売り」で、壊れても修理が困難ですが、アンティークアナスタシアでは他店で不可能な修理に対応いたします。詳しくはこちらをご覧ください。クリスタル(風防)が破損したり無くなったりした場合も、当時のドーム型風防をご用意いたします。





 バンドの種類の変更も可能です。高級感のあるコード・バンドがお薦めですが、お好みにより金属製バンドに変更することもできます。バンド交換は無料で承ります。またこの時計は当時の箱と組み合わせることもできます。箱は別売りですが、時計をお買い上げいただいた方には割引価格にてご提供いたします。下の写真は当時の箱のひとつで、これ以外にもさまざまな色や形のものがあります。







 本品は 1955年の女性用時計としてはたいへん珍しいことに、「センター・セカンド」方式です。この時代の「センター・セカンド」方式は、真っ赤に塗られた秒針が、一円玉よりも小さな時計のなかで健気(けなげ)に動く様子が愛(いと)おしく、手首を可愛く飾ってくれます。時計は無料でオーバーホール(分解掃除)をした後にお渡しいたします。お買い上げ後も期限を切らずに修理に対応しますので、日々安心してご愛用いただけます。

 お支払方法は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 128,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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