稀少品 近未来デザインの女性用時計 《クリスチャン・ディオール by ブローバ》 ハイ・ジュエルの高級品 スイス製 1973年


ムーヴメントの種類: ブローバ キャリバー 5BD

ケース(竜頭を除く時計本体)のサイズ 縦 28.5 x 横 22.5 ミリメートル  風防と裏蓋を含む厚さ 7.5 ミリメートル



 ミッド・センチュリー(英 mid-century 世紀の半ば)と呼ばれる二十世紀中頃は、建築や家具の歴史において、未来を志向したモダンなデザインが特徴的な時代です。ミッド・センチュリーのデザインは時計にも影響を及ぼし、それまでにはなかったフォルム(仏 une forme 形態)のモデルが出現しました。本品はアメリカのブローバ時計会社がクリスチャン・ディオールのために制作した 1973年の時計です。ケースから一切の直線を排した非対称のフォルムには、輝かしい近未来への憧れが込められています。





 この時代に電池の時計(クォーツ時計)は未だ存在せず、時計はすべてぜんまいで動いていました。ぜんまいで動く時計を機械式時計といいます。腕時計の歴史において 1960年代から 1970年代は機械式時計の技術が頂点に達した時代であり、この時代の時計は現代の時計に比べて格段に小さく、女性用時計はとりわけ華奢(きゃしゃ)に作られています。本品のケースはムーヴメントに比べてかなり大きめに作られていますが、それでも現行の十円硬貨ほどの大きさです。





 ケース本体の素材は真鍮にクロムめっきを施しています。ケースの裏蓋は肌と擦れ合う部分ですので、摩耗に強くアレルギーも起こしにくいステンレス・スティールでできています。





 時計において、針が動く背景となる板状の部品を、文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)といいます。本品の文字盤は金属製ですが、鮮やかな不透明コーティングが施されているせいで、プラスチックを連想させるポップで面白い効果が出ています。クリスチャン・ディオールの "CD" をデザイン化した淡い金色の弧が、艶消しの赤色文字盤を背景に美しい光沢を見せています。

 通常の文字盤では周囲にインデックス(時刻を表す刻み目や数字)が配置されますが、本品の文字盤にインデックスは無く、12時と6時の間を白線が結んでいます。ブローバ(BULOVA)とディオール(Dior)のロゴが白線を横切るように白文字で書かれ、白線及び真っ白な細い針と美しく調和しています。文字盤の最下部に、スイス製(SWISS)の表示があります。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)といいます。現代の時計はクォーツ時計といって、電池で動くクォーツ・ムーヴメントを使っています。クォーツ式時計が普及したのは 1970年代後半以降で、それ以前の時計は電池ではなくぜんまいで動いていました。

 電池で動く時計をクォーツ時計と呼ぶのに対して、ぜんまいで動く時計を機械式時計といいます。アンティーク時計はすべて機械式時計です。本品も機械式時計で、電池ではなくぜんまいで動きます。電池は不要なので、本品のムーヴメントには電池を入れる場所がありません。





 三時の横に突出したツマミを竜頭(りゅうず)といいます。ぜんまいはこの竜頭を指先でつまみ、回転させて巻き上げます。本品の竜頭にはクリスチャン・ディオールのロゴ(CD)がデザインされています。ぜんまいを十分に巻き上げると、時計は一日半動きます。そのまま放っておくと止まるので、一日一回以上ぜんまいを巻き上げてください。





 クリスチャン・ディオールのロゴをデザインしたユニークな尾錠は、Cが厚く Dが薄く作られています。バンドは Cに通すようになっていますが、デザイン性が優先されているために、通常の尾錠に比べるとバンドが少々通しにくく、また尾錠が Dの部分まで伸びているために、角を取らない尾錠の縁が手首に当たり、肌が敏感な方は不快に感じそうです。しばらく実際に使ってみて気になる場合は、この尾錠を使わずに保管し、通常の尾錠に交換するのも選択肢の一つです。代替の尾錠の提供及び交換作業は当店にて無料で行い、CDの尾錠はそのままお返しします。





 上の写真は本品の裏蓋です。「ステンレス・スティール製裏蓋」(英 STAINLESS STEEL BACK)の文字とケースのシリアル番号(2-793561)、ブローバ社に特有のデイト・コード(英 date code 製造年記号)が刻印されています。"N3" は 1973年の意味です。





 上の写真は裏蓋の内側です。ブローバ社のロゴと「20ミクロン金めっきベゼル」の文字、ケースのスタイル・ナンバー(品番)、スイス製の表示が刻印されています。本品のめっきに使われている金は、銀色のホワイト・ゴールドです。

 ブローバは現在ではスイスに本社がありますが、もともとはアメリカ合衆国の時計メーカーで、ミッド・センチュリー当時はニューヨークの五番街に本社を構えていました。しかしながら同社はほとんどの場合、ムーヴメントをはじめとする時計の主要部分をスイスで作っていました。特に本品は時計を最後までスイスで組み立て、完成品としてアメリカに輸入しています。そのような理由で、本品の裏蓋にはスイス製と刻印されています。





 本品のムーヴメントは、ブローバ キャリバー 5BD(Bulova 5BD)です。この時代にブローバが作っていた女性用時計のムーヴメントには、二通りのサイズがあります。いずれのサイズも現代の機械式時計では考えられないくらいに小さいですが、本品のムーヴメントであるキャリバー 5BDはその中でも一層小さな機械で、世界最小クラスのサイズを実現しています。上の写真は本品のムーヴメントをケースから取り出して文字盤と針を外し、一円硬貨に載せて撮影しています。





 ムーヴメントの受け側(裏蓋を開けるとすぐに見える側)には機械の型式名(5BD)の他、ブローバ時計会社(BULOVA WATCH Co.)、セヴンティーン・ジュエルズ(17 SEVENTEEN JEWELS 十七石)、スイス製(SWISS)の文字が刻まれています。良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、高級時計の部品として使用されるのです。必要な部分すべてにルビーを入れると十七石(じゅうななせき)の機械になります。十七石の機械はハイ・ジュエル・ムーヴメント(英 high jewel movement)と呼ばれる高級機です。

 十七石のハイ・ジュエル機を本品のように小型化する 1973年当時の時計製作技術は、真に驚嘆に値します。当時のブックレットには、ブローバ社の時計のムーヴメントが特別な鋼鉄を使用して製作されており、その鋼鉄は金よりも高価であること、ムーヴメントを構成する百個以上の部品は一万分の一ミリメートルの精度で製作されていること、歯車のピッチ(歯と歯の間隔)は百分の一ミリメートル以下であること、チラネジという部品は一個のシンブルに一万四千個も入ってしまうこと、などが書かれています。





 ブローバはムーヴメントのエボーシュ(半完成品)をスイスから輸入し、アメリカ国内で調速脱進機を取り付けて完成する場合が多く、そのようなムーヴメントの受けには、スイス製の表示に加え、アナジャスティド(英 UNADJUSTED 未調整)の文字が刻まれています。調整というのはエボーシュの段階の話で、ブローバ社はこれに主ぜんまいや調速脱進機を加え、調整を行います。ですから時計として完成した段階では当然のことながら歩度(ほど 時間の進み具合)は調整されていますが、もともとエボーシュだったのであれば、アナジャスティドの文字はそのまま残ります。

 しかしながら本品にアナジャスティドの文字は無く、スイス製とだけ表示されています。アナジャスティドの文字が無いのは、本品がスイス製エボーシュを輸入してアメリカ国内で完成品にしたのではなく、時計の全体をスイスで制作し、完成品の形でアメリカに輸入されたことを意味します。


 スイス製エボーシュ(半完成品)を輸入してアメリカ国内で完成させるのは、高額の関税が販売価格を押し上げるのを避けるためでした。当時のアメリカでは、国内の時計産業を保護するために、時計の完成品を輸入すると高額の関税が課されたのです。しかるに本品は、スイスの有名メーカーの高級時計と同様に、完成品を輸入しています。これは本品が購買力がある顧客層向けの時計であることを示します。

 このページには写真を掲載していませんが、当店には部品取り用のブローバ キャリバー 5BD が在庫しています。このうちブローバの一般的な文字盤がついている機械にはアナジャスティドの刻印がありますが、ディオールの文字盤が付いているムーヴメントには、本品と同様に、アナジャスティドの刻印がありません。このことからも、ディオールの時計が完成品としてスイスから輸入されたことがわかります。





 上の写真でムーヴメントの手前右側に金色の大きな環が見えています。これは天符(てんぷ)という部品で、機械式時計の心臓に相当する調速脱進機の一部です。ブローバ キャリバー 5BD の天符は 21600振動(f = 21600 A/h)といって、一秒間に三回、一時間に 10,800回の割合で振動(振り子のように往復しつつ回転すること)を繰り返します。

 ミッド・センチュリーの当時、本品のように質の良い時計の価格は、初任給の三か月分以上に相当しました。現代の貨幣価値でいえば、六、七十万円といったところでしょうか。クォーツ式(電池式)の安価な時計が容易に手に入る現在から見ると、昔の時計は想像もつかないほど高価な品物であったわけですが、製造後数十年経った時計でも普通に使えるという「一生もの」のクオリティを備えていたのであって、いわゆる「ブランド代」ゆえに品質に比べて価格が高すぎる商品とは事情が異なります。初任給三か月分の価格が付いた商品には、初任給三か月分の実質的な値打ちがあったのです。

 機械式時計は現在でも作られています。高級品を紹介する雑誌などで見かける数十万円から数百万円の時計が、機械式時計です。クォーツ時計は数年の寿命で、かなり良いものでも十年余りで回路が壊れて修理不能になりますが、機械式時計は数十年以上のあいだ動く「一生もの」です。良質の機械式時計の「初任給数か月分」という値段は、昔も今も変わりません。





 ブローバがクリスチャン・ディオールのために制作した時計は大きく二種類に分かれます。二種類のうちの一方は、そのシーズンだけのアクセサリー(英 accessories 洋服の付属品)として作られたファッション・ウォッチで、当時のディオールの時計ではプラスチックのバングル型をしています。ブローバは石数が多い高級時計のメーカーですが、バングル・タイプのディオールに限って、ピン・レバー・ムーヴメントを製作しています。

 ピン・レバー・ムーヴメントとはロスコフ脱進機を採用した機械のことで、正確性にも耐久性にも劣ります。クリスチャン・ディオールのような高級ブランドの洋服は、あくまでもそのシーズン限りのものであって、来年に再び着ることはできません。ディオールのバングル型時計は洋服の付属品として作られているので、洋服と同様に、次の年まで使い続けることを想定していません。このような理由で、ディオールのバングル型時計には使い捨てのピン・レバー・ムーヴメントが入れられています。





 これに対してブローバがディオールのために製作したもう一方の時計は、洋服の付属品ではなく、本格的なリストウォッチ(腕時計)として設計・製作されています。本品はクラブトゥース脱進機を使用したハイ・ジュエル機で、こちらのグループに属します。ブランド製や見栄えだけではなく、質の良い高級時計として作らた本品は、特定のシーズンの洋服に付属するアクセサリー(付属品)ではなく、洋服から離れた独自の価値と優れた品位を有する時計として、長く使えるように設計、製作されています。

 本品の機械はもともとの耐久性が高いうえに、アンティークアナスタシアは古い時計の修理に対応していますので、当店のお客様はこの美しい時計を一生ものとして末長くご愛用いただけます。どうぞご安心ください。





 昔も今も、時計会社は時計のみを作り、バンドは作っていません。新品の時計を買ったときに付いているバンドは、バンドのメーカーが時計会社に納入したものです。それゆえアンティーク時計のバンドに関しても、そのバンドがもともと付いていたオリジナルかどうかということはあまり気にする必要がありません。革やファブリックのバンドは消耗品ですから、いずれにせよ新品に交換する必要があります。

 商品写真に写っているバンドはもともと本品についていたもので、まだ使える状態です。しかしながらこのバンドは新品ではありませんし、消耗品であるゆえにいつかは取り替える必要が生じます。本品に対応するバンド幅は 7ミリメートルですが、このように細いバンドは一般に市販されておらず手に入りにくいので、当店ではヨーロッパの専門店に発注して新品を取り寄せました。本品をお買い上げいただいた方には現状で取り付けられているオリジナルのバンドとは別に、取り換え用のバンド一本を差し上げます。





 本品に金属製バンドを取り付けることも可能です。写真に写っているバンドは 1970年代の未使用品です。このバンドはステンレス・スティールでできており、長さを自在に調節できます。時計をお買い上げのお客様がこのバンドへの取り換えを希望される場合、バンドと取り換え作業を無料で提供し、もとの革バンドと尾錠はそのままお返しします。











 本品はブローバの箱に入れてお渡しいたします。上の写真に写っている箱は 1970年代のもので、サイズは 25 x 5 センチメートル、蓋を閉じた状態で最も厚い部分は 2.7センチメートルです。






 アンティーク時計を安心してご購入いただくために、全般的な解説ページをご用意いたしました。アンティーク時計を初めて購入される方は、こちらをお読みくださいませ。





168,000円

※ 税、オーバーホール代、スペア用新品バンド(革製または金属製)一本込み


電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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