八十年前の手巻き式 《ベンラス 野の花の時計》 洗練されすぎないデザインが可愛い女性用アンティーク 一円玉サイズ 1940年代


スイス製十七石手巻ムーヴメント ベンラス モデル BN2 (ETA 1240)

竜頭とラグを除く時計本体のサイズ 縦 21 x 横 17.5 ミリメートル  風防と裏蓋を含む厚さ 9 ミリメートル



 普段使いできる良好な状態でアメリカに残っていた女性用アンティーク時計。野の花のように愛らしいケースに、クリアで分厚い風防を組み合わせています。機械はぜんまいで動く手巻き式です。





 1940年代のアメリカには、国内に本拠を置く五つの主要な時計メーカーがありました。最大手はブローバです。ブローバはムーヴメントの半完成品をスイスから部品として輸入し、アメリカ国内で時計に仕上げていました。ブローバは宝飾店が起源であるせいか、女性用、男性用ともに洗練されたデザインの時計を生み出しました。ブローバに次いで規模が大きかったのはエルジンです。エルジンの時計デザインはブローバほど洗練されていませんが、同社は時計のすべてを自社生産できる技術力を有しており、ムーヴメントも自社製でした。

 この二社以外の時計会社としては、ハミルトン、ウォルサム、ベンラスがありました。ハミルトンとウォルサムはムーヴメントを自社生産し、ベンラスはブローバと同様の方式でスイス製エボーシュ(半完成品)を自社で仕上げていました。ハミルトン、ウォルサム、ベンラスのうち、デザインが最も洗練されているのはハミルトンの時計です。ウォルサムとベンラスは時計の雰囲気がエルジンに似ており、ブローバやハミルトンのような華やかさに欠ける反面、如何にも真面目な時計屋が作った浮薄さの無いデザインが特徴です。





 ミッド・センチュリー(英 mid-century 世紀の半ば)と呼ばれる二十世紀半ばは、男女ともに小ぶりの時計が人気を集めた時代でした。本品はケースのサイズが縦 21ミリメートル、横 17.5 ミリメートルです。一円硬貨は直径 20ミリメートルですから、本品をはじめ、当時の時計は一円硬貨ほどの大きさです。


 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)をケース(英 case)といいます。 本品のケースは板状の金をベース・メタルに張り付けた素材で、金張り(ロールド・ゴールド・プレート)と呼びます。金張りは現代の金めっき(エレクトロ・プレート)に比べて金の層が格段に分厚く、優れた耐久性を有するとともに、見た目にも高級感があります。

 本品のケースに張られている金はおそらく十カラット・ゴールド(純度 10/24のゴールド 十金)で、金合金そのものの強度が強く、時計ケースの素材として優れています。商品写真でお分かりいただける通り、本品の金張りはおよそ八十年の歳月にもかかわらず良好な状態です。特筆すべき問題は何もありません。





 時計にバンドを取り付けるための突起をラグ(英 lugs)といいます。現代の時計はケースの十二時側と六時側にそれぞれ二本ずつのラグが突出し、バネ仕掛けで伸縮する小さなピン(バネ棒)により、革や布、金属でできた薄く幅広のバンドをラグに固定する仕組みになっています。しかるに 1930年代から 1970年代頃の女性用時計はとても小さいので、ほとんどの場合、ケースの十二時側と六時側にそれぞれ一本ずつのラグが突出し、バンド末端の金具をラグの孔に引っかける方式が採用されています。この取り付け方をセンター・ラグ方式と呼びます。本品もセンター・ラグ方式の時計です。

 後に述べるように、本品のようなアンティーク時計は現代の時計に比べると極めて長寿命です。しかしながらアンティーク時計のバンドは、現代の時計と同様に消耗品です。新品として売られていたときのバンドが破損すれば交換する必要がありますし、好みのデザインでなかったり、サイズが合わなかったりするバンドも交換することになります。センター・ラグ用の時計バンドはどこを探しても売っていませんが、当店にはセンター・ラグ用のバンドが多数在庫しており、いつでも交換が可能です。ご安心ください。





 時計ケースの裏蓋とバンドの内側は肌に触れるので、アレルギーと摩耗を防止するために、ステンレス・スティールでできています。現状で取り付けられているバンドはバネによる伸縮式で、ワンタッチで着脱できます。また留め金式のような切れ目が無いゆえに、着脱の際も落下事故が起こりにくいのが大きな長所です。





 時計において、針が動く背景となる板状の部品を、文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)といいます。針と文字盤は風防、いわゆるガラスによって保護されています。風防は時計ケースに嵌っています。本品の風防はガラスよりも透明度が高く、割れにくいアクリル製です。分厚い形状が個性的です。

 アンティーク時計の文字盤は変色していることも多いですが、本品の文字盤はほとんど変色しておらず、たいへん綺麗です。文字盤は上品な半艶消しのライト・シルバーで、上部中央にベンラスのロゴ(BENRUS)、文字盤最下部にスイス製(SWISS)の表記があります。ベンラスはアメリカの時計会社ですが、ムーヴメントをスイスから輸入していたので、スイス製と表記されています。


 時計の文字盤には時刻を表す刻み目や数字が配置されており、これをインデックス(英 index)と呼んでいます。インデックスの様式には、時代ごとにはっきりとした流行があります。本品のようにすべてをアラビア数字で表示したインデックスは、1940年代以前に制作された時計の特徴です。針は長短針とも金色のバトン型です。この時代の女性用時計に秒針はありません。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)といいます。現代の時計はクォーツ式時計といって、電池で動くクォーツ・ムーヴメントを使っています。クォーツ式時計が普及したのは 1970年代後半以降で、それ以前の時計は電池ではなくぜんまいで動いていました。

 電池で動く時計をクォーツ式時計と呼ぶのに対して、ぜんまいで動く時計を機械式時計といいます。アンティーク時計はすべて機械式時計です。上の写真は本品のムーヴメントを取り出し、ピンセットで固定して撮影しました。本品も機械式時計で、電池ではなくぜんまいで動きます。電池は不要なので、本品のムーヴメントには電池を入れる場所がありません。

 三時の位置から突出するツマミを竜頭(りゅうず)といいます。ぜんまいはこの竜頭を指先でつまみ、回転させて巻き上げます。上の写真で竜頭はムーヴメントの下方に突出しています。

 竜頭を指先でつまんで回転させれば、誰でも簡単にぜんまいを巻くことができます。竜頭を一段階引き出して回転させると、時刻合わせができます。これは現代の腕時計と同じです。竜頭の操作(ぜんまいの巻き上げと時刻合わせ)は簡単ですので、アンティーク時計が初めての方でも全く心配はいりません。ぜんまいを十分に巻き上げると、時計は一日半動きます。そのまま放っておくと止まるので、一日一回以上ぜんまいを巻き上げてください。なお時計を長年ご愛用いただいて竜頭が摩耗しても、当店にていつでも取り換え可能ですのでご安心ください。





 ムーヴメントの受け側(裏蓋を開けるとすぐに見える側)には機械の型式名(BN2)の他、ベンラス時計会社(BENRUS WATCH Co.)、セヴンティーン・ジュエルズ(17 SEVENTEEN JEWELS 十七石)、スイス製(SWISS)等の文字が刻まれています。

 良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、高級時計の部品として使用されるのです。必要な部分に余すところなくルビーを入れると、十七石(じゅうななせき)の機械になります。ムーヴメントの表面に赤く見えているのがルビーで、上の写真では五つしか見えませんが、文字盤を外さないと見えないムーヴメントの地板側やムーヴメントの内部を含めると、合計十七個のルビー製部品が使われています。十七石の機械はハイ・ジュエル・ムーヴメント(英 high jewel movement)と呼ばれる高級機です。

 十七石のハイ・ジュエル機を本品のように小型化する時計製作技術は、真に驚嘆に値します。当時の時計会社のブックレットには、時計のムーヴメントが特別な鋼鉄を使用して製作されており、その鋼鉄は金よりも高価であること、ムーヴメントを構成する百個以上の部品は一万分の一ミリメートルの精度で製作されていること、歯車のピッチ(歯と歯の間隔)は百分の一ミリメートル以下であること、チラネジという部品は一個のシンブルに一万四千個も入ってしまうこと、などが書かれています。





 ミッド・センチュリー当時、本品のように質の良い時計の価格は、初任給の二か月分以上に相当しました。現代の貨幣価値でいえば、三、四十万円といったところでしょうか。クォーツ式(電池式)の安価な時計が容易に手に入る現在から見ると、昔の時計は想像もつかないほど高価な品物であったわけですが、製造後数十年経った時計でも普通に使えるという「一生もの」のクオリティを備えていたのであって、いわゆるブランド代ゆえに品質に比べて価格が高すぎる商品とは事情が異なります。初任給二か月分の価格が付いた商品には、初任給二か月分の実質的な値打ちがあったのです。

 クォーツ式時計は数年の寿命で、かなり良いものでも十年余りで回路が壊れて修理不能になりますが、機械式時計は数十年以上のあいだ動く「一生もの」です。1940年代に作られた本品も、八十数年前の時計であるにもかかわらず、ごく普通に動いています。





 機械式時計は現在でも作られています。高級品を紹介する雑誌などで見かける数十万円から数百万円の時計が、機械式時計です。良質の機械式時計の「初任給数か月分」という値段は、昔も今も変わりません。本品の機械はもともとの耐久性が高いうえに、アンティークアナスタシアは古い時計の修理に対応していますので、当店のお客様はこの美しい時計を一生ものとして末長くご愛用いただけます。どうぞご安心ください。


 アンティーク時計を安心してご購入いただくために、全般的な解説ページをご用意いたしました。アンティーク時計を初めて購入される方は、こちらをお読みくださいませ。





本体価格 88,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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