(上) モデルの手首周りは、装着部分で測って 16センチメートルです。





ベレア 青と黒のエマイユ・シャンルヴェによるアール・デコ装飾 アラビア数字文字盤 二針の17石高級時計

1960年代

ムーヴメントの種類: Fontainemelon cal. 69-2 (FHF 69-2)



金色ベゼルの横長楕円形ケースに、ステンレス・スティール製裏蓋

黒色の時針と分針

シャンパン・ゴールドの文字盤に黒色の斜体アラビア数字インデックス

青と黒のガラスによるアール・デコのエマイユ(七宝)



 二色のガラスでアール・デコ様式のエマイユを施し、個性的な美を誇るドレス・ウォッチ。電池ではなくぜんまいで動く「手巻き式」のスイス時計です。

 高級ファッションブランドの製品など、ユニークなデザインの時計は、その年の服に合わせるアクセサリーとして位置づけられています。それゆえにデザインは美しくても耐久性が無く、時計として見ると安物である場合が往々にしてあります。これに対して本品は初めから「時計」として真面目に作られており、17個のルビー製部品を使用した高級なムーヴメント(時計内部の機械)を搭載しています。17個のルビーを使用したムーヴメントには優れた耐久性があり、一生ものとして使うことができます。


【文字盤と針】

 文字盤は淡い金色(シャンパン・ゴールド)で、中央から放射する無数のヘアライン(細かい線)によってマット(艶消し)処理を施されているために、柔らかく上品な光に包まれています。曲線的で優雅な斜体フォント、いわゆる「ブレゲ数字」によるアラビア数字インデックスが、柔らかい雰囲気の文字盤上にくっきりと浮かび、良好な視認性を確保しています。





 本品の文字盤は再生処理を施しておらず、オリジナルです。明るい色の文字盤は綺麗な状態で残るのが難しいですが、本品の文字盤には特筆すべき重度の変色や大きな疵(きず)が無く、たいへん良好なコンディションです。

 文字盤には「ベレア」(BELAIR)、「17石」(17 JEWELS) の文字が書かれています。「ベレア」というブランド名は、フランス語で「上品さ」や「上流社会」を表す「ベレール」(bel air) からの造語でしょう。「17石」の意味については後述します。


 インデックスの字体が優雅なブレゲ数字ですので、リーフ形等の針も良く合うはずですが、バンドのアール・デコ装飾と調和させるために、直線的な「バトン形」の針が採用されています。すっきりと見やすい黒色のバトン針は、日々愛用しても飽きが来ません。



【ドレスウォッチとしての位置づけ】

 この時計は秒針が無い「二針」です。これは本品がドレスウォッチに位置づけられていることを示します。


 現代の時計はセンター・セカンド方式(文字盤中央に秒針を取り付ける方式)の三針が普通ですが、センター・セカンド方式は製作が難しく、1960年代以降にようやく普及しました。それ以前の時代、男性用時計はスモール・セカンド方式で、小さなサイズの秒針が6時の位置に取り付けられていました。

 男性用ヴィンテージ腕時計のスモール・セカンドは 3, 4ミリメートルの長さしかなく、視認性は良くありません。したがって一分間を正確に測定する場合、腕時計ではなくストップ・ウォッチを使うか、少し無理をしてセンター・セカンド秒針を取り付けた「ドクターズ・ウォッチ」を使うか、いずれかの方法が採られました。センター・セカンド式「ドクターズ・ウォッチ」の場合、秒針は視認性をいっそう高めるために、赤く塗られるのが普通でした。1960年代になってセンター・セカンド秒針が普及しても、秒針を赤く塗る伝統はしばらくの間続きました。1960年代、70年代頃のヴィンテージ・ウォッチの秒針が赤いのは、センター・セカンド式「ドクターズ・ウォッチ」の名残です。

 要するに、私が言いたいのは、「三針の時計はドレス・ウォッチではなく、作業現場でストップ・ウォッチ代わりに使う時計である」ということです。現代の私たちは、時計の秒針を、付いていて当たり前のものだと思っていますが、もともと時計の秒針とは、作業現場で測定に使うための装置であったのです。


(下・参考画像) 1970年頃の中三針式時計、ローマー社の「マーク IV(フォー)」。秒針が赤いのは、センター・セカンド秒針が測定に実用されていた時代の名残です。当店の商品




(下・参考画像) 同じ時代の男性用ドレス・ウォッチ。現場の測定用ではないので、秒針はありません。当店の商品




 いっぽう女性用の場合、ほとんどのヴィンテージ時計のサイズは一円硬貨よりも小さく、文字盤はさらに小さなサイズです。この小さな文字盤の六時の位置に、長さ1ミリメートルほどのスモール・セカンドを取り付けたとしても、小さすぎて見えません。それゆえ女性用アンティーク時計、ヴィンテージ時計には、秒針が無いのが普通です。

 ただしセンター・セカンド式秒針を女性用時計に取り付けることは、技術的には充分に可能でした。実際、女医やナース用腕時計には、赤く塗ったセンター・セカンドが付いていました。しかし一般の女性が秒針付きの時計を買うことはありませんでした。1960年代になっても、70年代になっても、女性たちは秒針の無い時計を使い続けました。

 この事実は、女性用時計がドレス・ウォッチとして位置づけられていたことを示します。女性にとって、時計はおしゃれを引き立たせるジュエリーあるいはアクセサリーであり、決して「現場の測定機器」ではなかったのです。


【バンドのエマイユ装飾、金色と青の取り合わせ】

 バンドの七宝細工はエマイユ・シャンルヴェ (émail champlevé) という技法で、花紺青(はなこんじょう)のスマルト(smalt コバルトガラス)と、黒の不透明ガラスによります。

 エマイユ・シャンルヴェは金属板の表面をパターンにしたがって彫りくぼめ、窪みの中にガラスの粉末を入れて焼成します。曲面に施すのが難しい技法ですが、本品ではガラス粉末の量と焼成温度を巧みにコントロールして、美しい仕上がりを得ています。




 エマイユ・シャンルヴェは非常に長い歴史を持つ技法ですが、本品の装飾は1920年頃を中心に流行した「アール・デコ」様式によってデザインされています。幾何学的な線が描き出すステンドグラスのようなパターンは、すっきりとした左右対称形で飽きが来ません。

 金色と黒の対比が高級感を醸し出す一方で、金色と青の鮮烈な組み合わせが、高貴なさわやかさを感じさせます。西洋美術の伝統において、透き通る蒼穹(そうきゅう 青空)の青は聖母マリアの色(ブリュ・マリアル、マリアン・ブルー)であり、輝く金色は天上の栄光を象徴します。


【この時計のスイス製ムーヴメント、「キャリバー 69-2」について】

 スイス北西部のヌーシャテル県はスイスにおける時計産業の中心地で、県都ラ・ショー=ド=フォンは、「時計産業のため」という視点で都市計画が行われた「時計の都」として、南西に隣接するル・ロクルとともに、ユネスコの世界文化遺産にも指定されています。このヌーシャテルの県内、ラ・ショー=ド=フォンとル・ロクルの東隣にあるフォンテンメロン (Fontainemelon) は人口千数百人の小さな町ですが、スイス時計産業にとってやはり重要な場所で、1825年創業の老舗ムーヴメントメーカー、フォンテンメロン社 (Uhrenfabrik Fontainemelon AG) が、1984年まで本社を置いていました。

 この時計に搭載されている機械は、フォンテンメロン社の手巻ムーヴメント「キャリバー 69-2」です。ムーヴメントとは、時計内部の機械のことです。

 フォンテンメロン社は男性用、女性用ともに数々の優れたムーヴメントを製作していますが、女性用に関して言えば、長方形のキャリバー59と、トノー(樽)形のキャリバー60が特に良く知られています。本品には、キャリバー60の改良型であるキャリバー69を、さらに改良した「キャリバー 69-2」が搭載されています。

 「フォンテンメロン キャリバー 69-2」(FHF 69-2) は 17石ムーヴメント、つまり17個のルビーを使用した高級機です。 コンディションはきわめて良好で、天符の振り角も大きく、スムーズに動作しています。





 電池ではなくぜんまいで動く時計を「機械式時計」といいますが、良質の機械式時計のムーヴメント(時計内部の機械)には、重要な部品の摩耗を防ぐために、ルビーが使われています。ルビーとサファイアはコランダムという鉱物で、いずれもモース硬度「9」と、たいへん硬い宝石です。ルビーを使うのが望ましい箇所は15箇所あって、そのすべてにルビーを入れると17個の石が使われることになります。17石のムーヴメントは「ハイ・ジュエル」(high-jewel) と呼ばれる高性能の機械です。

 上質の機械式ムーヴメントは見た目にもたいへん美しいものですが、この美しさは見せるためにうわべを飾ったのではなく、上質の物に自(おの)ずから備わる美、つまり機能美です。1960年代、70年代は機械式時計の技術レベルが頂点に達した時代であり、特に「ハイ・ジュエル」のヴィンテージ時計は、スイス時計各社が作る現代の高級機械式時計と同等の性能を備えています。





 因みに1960年代、70年代において、ハイ・ジュエルの時計は初任給の2カ月分から3カ月分の価格でした。現代のクォーツ時計に比べるとずいぶんと高価ですが、現在スイスで作られている機械式時計も、価格はやはり数十万円です。ほとんどのクォーツ時計には、実はおもちゃのようなプラスチック製ムーヴメントが入っていて、そのせいで安く手に入るようになったのですが、良質の機械式時計の値段は、昔も今も変わりません。

 初任給の2カ月分から3カ月分の価格で売られていた1960年代、70年代のハイ・ジュエルの時計は、適切なメンテナンスによって数十年間動き続ける「一生もの」です。「一生もの」である事を考えると、「初任給の2カ月分から3カ月分」という価格は決して高くはありません。現代のクォーツ時計でも、ブランド物を買えば数十万円しますが、クォーツ・ムーヴメントの心臓である「回路」の寿命は、高級時計のメーカー自身が言うところではおよそ七年、長く見積もってもせいぜい十年ちょっとです。

 これで分かっていただけたことと思いますが、もともとの価値の半分以下、ときには数分の一で手に入るアンティーク時計(ヴィンテージ時計)は、たいへんなお買い得品です。故障の際に部品が手に入らないという理由で、アンティーク時計はお買い上げ後の修理、メンテナンスに対応しない「現状売り」となるのが普通ですが、当店では長期に亙り修理に対応いたします。ご安心ください。


【お勧めポイント】



 流行のブランド時計も恰好よくはありますが、所詮は何万本という単位で生産される量産品にすぎません。日常使いが可能で、日々の生活に潤いと上質の華やぎを与えてくれる「一点もの」、あらゆる華やかな場にもふさわしい「一点もの」を、ぜひ生涯の伴侶にお選びください。




本体価格 86,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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