ブローバ アール・デコ宝飾時計 キャリバー6BA 21石 ダイヤモンド二石付 1951年


 アメリカのブローバ社が 1951年に制作した女性用時計。上品な彫金ケースにブルー・スティールの針とアラビア数字文字盤を採用した小さな時計で、秒針が無いドレス・ウォッチです。21石のスイス製手巻ムーヴメント「ブローバ キャリバー 6BA」(オロール=ヴィルレ キャリバー 120)を搭載しています。





 「アール・デコ」(art déco フランス語で「装飾美術」の意)とは 1920年代から 1940年代にかけて流行した美術工芸及び建築の様式で、幾何学図形を多用し、飽きの来ないすっきりとしたデザインが特徴です。12時側と6時側に一つずつ、本物のメレ・ダイヤモンドが嵌め込まれています。現代のダイヤモンドはブリリアント・カットですが、この当時のダイヤモンドは現在では見られなくなったシングル・カットです。ダイヤモンドは二石とも小さな爪でしっかりとプロング・セット(爪留め)され、これを取り巻く複雑な模様の縁にはミル打ちが施されています。「ミル打ち」はアンティーク・ファイン・ジュエリーに見られる彫金技法です。





 上の写真は、左から順に、アール・ヌーヴォー期(十九世紀末から二十世紀初頭)の置時計、アール・デコ期の置時計、アール・デコ期の腕時計(本品)を比較したものです。アール・ヌーヴォー期の意匠(左端)は、直線部分を全くと言って良いほど有さず、生きた植物のように不規則な曲線のみで構成されています。これに対してアール・デコ期の意匠(中央)は直線を多用するのが特徴で、写真の置時計では数字の直線的字体にアール・デコらしさが良く表れています。アール・デコ期の意匠にも曲線はありますが、アール・ヌーヴォーの曲線のように不規則ではなく、円やサイクロイドなどの規則的曲線で構成されています。

 本品をこれらふたつの置時計と比べてみます。本品の意匠は直線と曲線の両方を用い、曲線に関しては円や扇形など左右対称で規則性のある図形となっています。したがって本品の意匠はアール・デコ様式に基づいていることがわかります。

 なお「アール・ヌーヴォー様式のアンティーク懐中時計」は存在しますが、「アール・ヌーヴォー様式のアンティーク腕時計」は存在しません。腕時計は1910年代から20年代に普及し始めた品物ですが、その頃はアール・ヌーヴォーが廃れ、アール・デコの時代となっていたからです。したがってアール・ヌーヴォー様式懐中時計を腕時計に改造した場合は別として、最初から「腕時計」として制作された品物の場合、最初期の意匠は既にアール・デコ様式となっています。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計の外側)を「ケース」(英 case)といいます。本品のケースは10カラット・ゴールド・フィルド 、つまり 10カラットの金張り(ゴールド・フィルド)です。「金張り」とは板状の金をベース・メタルに張り付けたもので、現代の金めっきに比べると、金の厚みは数十倍に達します。そのため摩耗に強く、見た目にも高級感があります。本品のケースに張られている金は10カラット・ゴールド(純度 10/24のゴールド)ですので、十八金に比べて金そのものの強度が格段に強いのは大きな長所です。

 上の写真は時計の裏蓋側で、"10K GOLD FILLED"(10カラット・ゴールド・フィルド)、"BULOVA L1"(ブローバ 1951年)、及びケースのシリアル番号の刻印があります。金張りの磨滅、裏蓋の歪み等、特筆すべき問題は何もありません。





 時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を「文字盤」、文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の数字を「インデックス」(英 index)といいます。本品の文字盤は正方形で、半艶消しのライト・シルバーです。インデックスの外周には、一分ごとの目盛によって、角を丸めた正方形が描かれています。一分ごとの目盛が文字盤に描かれているのは、この時代の女性用時計には珍しい意匠です。

 文字盤には "BULOVA"(ブローバ)の文字と、優雅な斜体のアラビア数字のインデックスを配します。本品では一時から十二時まで、すべてのインデックスがアラビア数字で表示されていますが、これは 1950年頃までに製作された時計の特徴です。これ以降のインデックスは数字とバー(棒)の混用となり、1960年代にはほぼ完全にバー・インデックスのみになります。1950年頃までに作られたアンティーク時計は、数字が書かれた文字盤がお好きな方にぴったりです。





 本品の文字盤は 1951年当時のオリジナルですが、非常に綺麗な保存状態です。針は最もドレッシーな「リーフ型」です。「リーフ」(英 leaf)とは植物の「葉」のことです。時計のリーフ型針は柳の葉を細く引き伸ばしたような形で、洗練された形状は上質のドレス・ウォッチにぴったりです。

 本品の針はブルー・スティールで、当時のオリジナルです。「ブルー・スティール」とは鋼を加熱して青い酸化被膜を形成させたものです。ブルー・スティールは貴金属ではありませんが、作るのに手間がかかるので、現代の時計に採用されることはまずありません。現代の時計の青い針は、大抵の場合青色の塗料を塗ってあります。本品の針は真正のブルー・スティールです。





 バンドを取り付けるための突起を「ラグ」(英 lugs)といいます。現代の女性用時計は昔の男性用時計に相当するサイズで、十二時側と六時側に二本ずつのラグが突出し、「ばね棒」と呼ばれる部品を使って、革や金属でできた幅広のバンドを取り付けるようになっています。しかしながら 1930年代から1970年代頃までの女性用時計は一円硬貨よりも小さなサイズですので、ラグは十二時側と六時側に一本ずつ突出し、写真に写っているコード・バンドをはじめ、細いバンドを引っ掛けるように取り付ける仕組みになっています。

 本品のラグはたいへん凝ったデザインで、繊細な彫金細工にダイヤモンド二石を嵌め込んでいます。クリスタル(文字盤と針を保護する風防)の枠となる金属製部分、すなわちケースの最上部を「ベゼル」(英 bezel)と呼びます。ラグの繊細な彫金細工は、ベゼルに施されたいっそう細密な彫金へと繋がっています。





 本品を横から見ると、中央のクリスタル(風防)がアーチ状に盛り上がっています。1930年代から1950年代頃までの女性用時計には、アーチ状に盛り上がったクリスタルが流行していました。本品のクリスタルにはキズがあったので、当店にて1940年代当時のプレクシグラス(アクリル)製デッドストック品に交換いたしました。写真はいずれも交換後に撮影しています。本品のようなアーチ形風防は現代の時計には見られない、アール・デコ様式の時計に特有のデザインです。風防を含めて測った本品の最大の厚みは 9ミリメートルです。現代の時計に比べるとむしろ薄型ですが、時計のサイズが小さいために厚みが目立って、コロコロと愛らしいジュエリーのようです。

 ぜんまいを巻いたり時刻を合わせたりする際のツマミを、竜頭(りゅうず)といいます。アンティーク時計は毎日ぜんまいを巻く必要がありますので、竜頭が摩耗していることがよくありますが、本品の竜頭は新品に交換済です。





 本品のムーヴメント(時計内部の機械)は電池ではなくぜんまいで動いています。本品のようにぜんまいで動く時計を「機械式時計」といいます。良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、高級時計の部品として使用されるのです。必要な部分すべてにルビーを入れると、「十七石」(じゅうななせき)のムーヴメントになります。十七石のムーヴメントは「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれる高級品です。

 本品のムーヴメントには「トウェンティ・ワン・ジュエルズ」(21 JEWELS 二十一石)、「アメリカ合衆国」(U.S.A.)、「ブローバ・ウォッチ・カンパニー」(BULOVA WATCH Co. ブローバ時計会社)等の刻印があります。機械式ムーヴメントは十七石あれば必要な個所すべてにルビーが入った高級品ですが、ブローバ社は本品に四個のルビーを追加し、「二十一石」の最高級ムーヴメントに改造しています。上の写真で赤く写っているのがルビーで、五個しか入っていないように見えますが、この写真に写っていない文字盤下の地板やムーヴメントの内部に入っていたり、箇所によって二重に入っていたりして、全部で二十一個のルビ-が使われています。





 上の写真の上方にある "47" の刻印は、このムーヴメントが1947年に製作されたことを示します。ケースには 1951年を示す "L1" の刻印がありましたから、ムーヴメントの方が先に作られたことがわかります。

 "6BA" はムーヴメントの機種名(キャリバー名)です。「ブローバ キャリバー 6BA」は、スイスのオロール=ヴィルレ社(またはベルノワーズ社 Fabrique d'ébauches Bernoises S.A. établissement AURORE Villeret)の「キャリバー 120」を元に製作した機械で、6.75 x 8 リーニュ、毎時 18,000振動 (f = 18000 A/h)、パワー・リザーヴ 40時間の手巻きムーヴメントです。

 オロール=ヴィルレ社はエボーシュ(ébauche フランス語で「素地」「下描き」等の意)の専門メーカーで、ブローバ社はこの会社からエボーシュ(ムーヴメントの半完成品)を買って調速脱進機を取り付け、「ブローバ キャリバー 6BA」を完成しています。ロレックス社もまったく同じ機械 (AV cal. 120) を採用し、そのまま十七石ムーヴメントとして使用していますが、「ブローバ キャリバー 6BA」は三番車受け側、四番車受け側、ガンギ車受け側、アンクル地板側の計四か所にルビー製部品(受け石)を追加しており、格段に上質の機械に仕上がっています。





 上の写真は 1960年代のブローバ社の広告で、「ブローバの時計を一つ作るのに九か月かかる」(It takes nine months to make a Bulova watch.) と書かれています。実際には安価な時計であれば給与二か月分程度で売られていたので、この広告の意味は、もしもひとりの職人が時計全体を作ったとすれば九か月かかるということでしょう。現代の独立時計師は実際に数か月の時間をかけてひとつの時計を作りますから、数百万円から一千万円以上の価格になっています。

 1951年の女性用時計は一円硬貨よりも小さなサイズですから、男性用時計よりもさらに高度な技術で制作されています。1951年当時、ハイ・ジュエルの宝飾時計である本品の価格は、初任給の三か月分以上に相当しました。現在の貨幣価値に換算すれば、60万円位でしょうか。良質の時計はたいへん高価であったわけですが、しかしながらこれは「ブランド代」ではなくて、「一生もの」と呼べるだけの内実、実質的価値を伴っていました。ムーヴメントにルビー製部品を多用するのも、優れた耐久性と長寿命を確保するためです。





 アンティーク時計はこのように優れた品質を有しますが、修理に必要な部品が手に入らないという重大な欠点があります。すなわちアンティーク時計はメーカーが無くなっている場合も多いですし、たとえメーカーが存続していても、数十年も前の部品は既に廃棄されていて、メーカー自身が持っていません。したがってアンティーク時計はどこの店でも原則的に「現状売り」で、壊れても修理ができません。しかしながらアンティークアナスタシアでは他店で不可能な修理に対応しています。詳しくはこちらをご覧ください。

 当店にはアンティーク時計のアクセサリ(バンド等の付属品)が豊富に揃っておりますので、クリスタル(風防)交換やバンド交換、バンドの種類の変更も可能です。私はコード・バンドが高級感があって好きなので、写真撮影にもこのタイプのバンドを取り付けましたが、お好みにより金属製バンドに変更することもできます。バンド交換はほとんどの場合無料で承ります。





 この時計は当時の箱と組み合わせることもできます。箱は別売りですが、時計をお買い上げいただいた方には割引価格にてご提供いたします。

 時計は無料でオーバーホール(分解掃除)をした後にお渡しいたします。お買い上げ後も期限を切らずに修理に対応しますので、日々安心してご愛用いただけます。お支払方法は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払いでもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





147,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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