ギョーシェ彫りに赤色エマイユ ローズ・ゴールドの針にローズ・カットの石付 可憐なアンティーク・ジュエリー・ウォッチ


ケースの直径 28.5 mm (突出部分を除く)


ギョーシェ彫りを施した800シルバー製ケースに、赤色ガラスのエマイユ

アラビア数字を手書きした白色琺瑯(ほうろう)文字盤

針にローズ・カットの石付


シリンダー脱進機

ダボ押し式時刻合わせ機構


1920年代頃



 可憐な女性用アンティーク時計。電池ではなくぜんまいで動く「機械式」で、小さな懐中時計の形をしています。





 同色のエマイユを施した「フルール・ド・リス」(fleur de lys 百合またはアヤメ文)形のブローチが付属しており、このブローチに掛けて着用することも、ブローチ部分を外してペンダント・ウォッチとして使うこともできます。落下防止のリボンや組み紐を付けて、ポケットやハンド・バッグに入れて持ち運んでもかまいません。





 時計内部の機械を「ムーヴメント」、機械を保護する「側」(がわ)のことを「ケース」といいます。本品のケースは「800シルバー」(純度 800/1000の銀)でできていて、三つの部分、すなわちベゼル(ガラスを嵌めた枠)、ムーヴメントを留める枠となる部分、及び裏蓋から成り立っています。ベゼルと裏蓋には細かい彫金細工が施されています。

 ボウ(時計上部の吊り輪)とブローチはブロンズまたは真鍮製です。ブローチにはケースと同様の彫金が施されています。





 ケースの彫金は波形のパターンを重ねた「ギョーシェ彫り」で、フランス語では「ギヨシャージュ」(guillochage)、英語では「エンジン・ターン」と呼ばれる技法です。「ギョーシェ彫り」は熟練した金銀細工師あるいはジュエリー職人が、ビュラン(彫刻刀)にかける力をコントロールしながら、一本ずつ線を刻んでゆきます。一度失敗すると修正は不可能ですので、たいへんな集中力と体力が必要です。

 完成したギョーシェ彫りケースにガラスのフリット(粉)を塗って焼成し、融けたガラスが流れる寸前に炉から出してゆっくりと冷却します。このようにして得られるのがエマイユで、濃い赤色ガラスを通して、ギョーシェ彫りのパターンを神秘的な深みのうちに浮き出させています。





 懐中時計の時代には、金属の表面に真っ白な不透明ガラスのエマイユを施した「琺瑯(ほうろう)文字盤」が多用されました。「琺瑯文字盤」はたいへん美しく、歳月が経過しても変色しませんが、制作に大きな手間とコストがかかるので、腕時計には使われなくなりました。

 アンティーク時計の「琺瑯文字盤」は、制作された時には完全な状態であっても、長い年月が経つうちには何本ものヘアライン(非常に細い線状のひび割れ)が入ります。ヘアラインが入る原因はさまざまですが、修理や整備のために文字盤を触った際に誤って衝撃を加えた場合もあるでしょうし、たとえ間違った取り扱いをしなくても、温度変化に伴う金属とガラスの膨張・収縮率が異なるために、異素材を張り合わせた「琺瑯文字盤」には、長い年月の間にいつしかひび割れが生じる可能性が高いのです。長い年月が経ってもヘアラインが全く無いならば、それは文字盤が非常にうまくできていたために時間による検証に耐えたということですが、そのような例はめったに見られません。





 しかるに本品の文字盤は全く無傷で、いかなる瑕疵(かし 欠点)もありません。本当にアンティーク品なのかと疑いたくなるほど綺麗ですが、この文字盤は正真正銘のオリジナルです。文字は熟練した職人による手書きで、小さな金の四角錐を五分ごとのマークとしています。

 ロース・ゴールド(ピンク・ゴールド)の典雅な針が、古き良き懐中時計の時代を偲ばせます。針には「ローズ・カット」の石が嵌め込んであります。「ローズ・カット」は19世紀から20世紀初めのジュエリーに見られる宝石のカットで、クラウン面(上側のカット面)が平坦でなく、角錐状に尖っています。この形を薔薇のつぼみになぞらえて、「ローズ・カット」と名づけられています。





 時刻合わせの方式は、アンティーク懐中時計によく見られる「ネイル・セット」(nail set ダボ押し式)です。竜頭(りゅうず)を引き出して回すのではなく、上の写真で11時半頃の位置にある突起を爪の先で押し込みながら竜頭を回すことにより、時刻を合わせます。





 ケース裏蓋の内側には、英語で「スイス」(Switzerland)、フランス語で「銀」(argent)、銀の純度を表す "0.800"、ケースのメーカーを表す "JW"、及びシリアル番号が刻印されています。蓋の中央に大きく刻印されている「弦月に王冠」は、1884年に制定された帝政ドイツの銀のホールマーク(hallmark 貴金属検質所で刻印されるマーク)です。また "0.800" の右側には、スイスにおいて800シルバーを表す「雷鳥」のホールマークが刻印されています。「雷鳥」のホールマークはムーヴメントの枠となるケース部分にも刻印されています。枠に打刻されたホールマークは下の写真に写っています。

 この時計ケースはスイス製ですが、ケースの刻印に複数の言語が混在しているのは、輸出品であったからです。本品はアメリカ合衆国にあったものですが、スイスのホールマークとともにドイツのホールマークが刻印されていることから、この時計が輸出されてドイツ国内で販売され、これをドイツで買った人がアメリカに持ち込んだものであることがわかります。

 当時、時計は非常に高価で、特に本品のように美術工芸品の水準にあるものの価格は、仮に現在の貨幣価値に換算するならば百数十万円以上であったと思われます。したがって本品は「ドイツで買ったお土産」などではなく、ドイツからアメリカに渡った移民が、新天地へと大切に携えて行った品物です。





 ムーヴメントはスイス製の手巻き式で、十分な数のルビーを使用した良質の機械です。本品のケースに見られるギョーシェ彫りとエマイユもたいへん手間がかかる工芸技術ですが、ムーヴメントも懐中時計の時代ならではの丁寧な作りです。上の写真で見られるとおり、受けは綺麗に面取りされています。天符の受け石座を留めるネジは天符受けの裏側から入れられています。コハゼは香箱受けの側面にネジ留めされた板バネで押さえられています。青焼きされたネジと金色の受けが、華やかなコントラストを描いています。

 脱進機は19世紀から20世紀初めによく使われた「シリンダー式」ですが、オーバーホールしたところ、後に圧倒的な普及を見せる「クラブトゥース式」と変わらず調子よく動作しています。天符の振り角は大きく、天真の曲がり、ひげぜんまいの巻き乱れ等の問題は一切無く、順調に動作しています。時刻合わせと巻き上げ機構、その他のどの部分にも、問題はまったくありません。





 外見上のコンディションも極めて良好です。時計本体のエマイユに剥落や亀裂は無く、文字盤も完璧な状態です。ブローチ部分のエマイユにごく小さな補修跡がありますが、肉眼で見ただけではおそらく気付きません。百年近く前のアンティーク時計としては、全体的に驚くほど良好な保存状態です。





販売終了 SOLD

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