H. パルナン cal. 6 銀無垢ケースにギョーシェ彫りとアール・ヌーヴォーの彫金 18リーニュのドレスウォッチ


 10石のシリンダー脱進機を搭載した懐中時計。およそ百年前のアール・ヌーヴォー期にフランスで制作されたものです。





 ケース(時計の外側)の直径は 47.0ミリメートル、ガラスを含む最大の厚さは 14.4ミリメートルで、ケースはめっきではない銀でできています。ケース側面にはクロスハッチ状のファセット(小面)が造形され、裏蓋には「ギョーシェ彫り」と呼ばれる同心円の彫金と、アール・ヌーヴォー様式による草花の彫金が施されています。「アール・ヌーヴォー」は日本美術の強い影響を受けて生まれたヨーロッパの美術様式で、植物のように不規則な曲線、草花をはじめとする自然物の写実的描写を特徴とします。




(上) リュドヴィク・ペナン作メダイユ 「我が肉を食し我が血を飲む人は永遠の生命を有す、而して我、終の日に之を復活せしむべし」 直径 41.1 mm 1869年 当店の商品です。


 ギョーシェ彫りの背景には小さな十字架あるいはフルール・ド・リス(fleur de lys 百合の花)のような文様が散りばめられています。これは19世紀のメダイユ彫刻によく見られる装飾です。本品の彫金はアール・ヌーヴォーを基調としつつ、この部分を縁取る唐草模様には、18世紀の装飾美術の影響が見て取れます。





 吊り輪(ボウ)に刻印された「白鳥」のポワンソン(ホールマーク 貴金属の検質の印)は、この銀無垢ケースが外国、おそらくスイスの銀製品工房で制作され、フランスに輸入されたものであることを示します。突出部分の基部には、フランスにおいて 800シルバーを示す「イノシシの頭」のポワンソンも刻印されています。20世紀初頭の懐中時計ケースはニッケル合金製が普通ですから、銀無垢ケースに彫金を施した本品は高級品であることがわかります。

 なお彫金で飾られた懐中時計の裏蓋は時折目にしますが、時計の側面が本品のようにファセットを有する意匠はたいへん珍しく、私自身これまで本品以外に手に入れた記憶がありません。





 本品は電池ではなくぜんまいで動く「機械式時計」ですので、一日一回、竜頭(りゅうず)を回してぜんまいを巻く必要があります。本品の竜頭はアンティーク懐中時計に特有の優美な形で、全く磨滅しておらず新品同様です。時刻合わせは「ダボ押し式」です。11時の辺りに突出している小さなボタンを爪の先で押し込んだ状態で竜頭を回すと、時刻合わせができます。小さなボタンを押し込まずに竜頭を回すと、ぜんまいが巻き上げられます。





 本品の文字盤は白色ガラスのエマイユによる琺瑯(ほうろう)文字盤で、黒色のローマ数字及びアラビア数字によるインデックスを配します。文字盤の保存状態は良好です。中心部から11時付近に向けてヘアライン(ひび)がありますが、なかなか気づかない程度のもので、写真にもうまく写りませんでした。

 インデックスは手書きで、ローマ数字の内側に小さ目のアラビア数字を書いて 二十四時間表示としています。インデックス外側の十二か所には、粉末状の金を膠(にかわ)に溶いて、ドットを描いています。





 短針と長針は「ルイ十四世針」と呼ばれる優雅な形です。針は良好な状態で、折れ、曲がり、錆(さび)等の問題は一切ありません。

 現代の時計の秒針は「センター・セカンド」といって、短針、長針と同様に、時計の中央に取り付けられています。これに対して懐中時計の秒針は「スモール・セカンド」といって、六時の位置に取り付けられています。時計の中央に秒針を取り付ける方式のムーヴメントを制作するのは技術的に困難で、「センター・セカンド」が普及するのは1960年代です。アンティーク懐中時計の秒針はすべて「スモール・セカンド」方式で、本品も例外ではありません。





 ガラスに微細なきずはありますが、ガラス交換を要するほどではなく、十分に良い状態です。ガラスは厚めで、縁が斜めにカットされています。

 なお英語で「ハンター・ケース」(hunter case 「猟師用ケース」の意)、フランス語で「サヴォネット」(savonnette 「石鹸」の意)と呼ばれる蓋付ケースの懐中時計は、ガラスが厚さ 1ミリメートル以下と極端に薄いために破損しやすく、いったん破損すると交換用ガラスが見つからないので、当店では極力扱わないようにしています。本品のように蓋が無い「オープン・フェイス型」の懐中時計はガラスが厚く、またもし壊れた場合にも交換用ガラスが入手可能ですので、安心して使えます。





 本品のムーヴメント(時計の機械)は18世紀から20世紀初頭頃まで使われた「シリンダー脱進機」を搭載しており、これは現代の機械式時計が採用する「クラブトゥース脱進機」とは仕組みが異なります。「クラブトゥース脱進機」は整備調整すればクォーツ時計を凌(しの)ぐ精度が出ますが、「シリンダー脱進機」はそれほどではありません。しかしながら「シリンダー脱進機」の精度は日常の使用に何ら差し支えは無く、百年前の時計ならではのアンティークな機構を楽しんでいただけます。

 本品に使われているルビーの数は十石です。「シリンダー脱進機」と「クラブトゥース脱進機」では必要なルビーの数が異なります。シリンダー脱進機であれば、十個のルビーは必要を十分に満たす数です。





 上の写真は時計を動作させて撮影しました。天符に注目いただければ分かるように、天真に曲がりはありません。ひげぜんまいにも乱れはありません。





 上の写真は文字盤を外したところで、このムーヴメントが「アッシュ・ペ・シス」(HP 6)、すなわち H. パルナン社 (Société des Établissements Parrenin) の「キャリバー 6」であることがわかります。 "33387" はこのムーヴメント(機械)のシリアル番号です。

 H. パルナン社は時計師イポリト・パルナン (Hyppolite Parrenin, 1851 - 1915) が創業した時計会社で、ブザンソンの東、スイスと国境を接するフランス東端の町、ヴィレ=ル=ラック(Villers-le-Lac フランシュ=コンテ地域圏ドゥー県)に本社がありました。イポリト・パルナンは、リップ (LIP) の創業者エマニュエル・リップマン (Emmanuel Lipmann, 1844 - 1913) と同世代で、リップは 1867年、H. パルナンは 1873年に、いずれもドゥー県で創業しました。H. パルナンはリップと並んでフランスの時計産業を興した会社です。





 本品は真正のアンティーク時計ですが、たいへん古い年代にもかかわらず優れた保存状態で、十分に実用できます。裏蓋の彫刻は細部までよく残っています。文字盤と針、ガラスに特筆すべきコンディション上の問題は無く、いずれも美しくデザインされています。厚さは二つ折り携帯電話と同程度で、スマートにポケットに収まります。

 お支払方法は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払いでもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





84,000円 オーバーホール込 現状売り 71,400円 ※ 10月15日のお申し込みまで

電話 (078-855-2502) またはメールにてご注文くださいませ。




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