真珠 その三 マベガイとマベ真珠
huîtres perlières marines et leur perles ― 3. Pteria penguin et ses perles




(上) マベガイ


 マベガイ(Pteria penguin 註1)はウグイスガイ属マベ亜属の二枚貝で、足糸でヤギ(軟体サンゴ)などに付着して生活します。アコヤガイよりも暖かい海を好み、わが国では奄美を北限とします。マベガイの真珠層は元々アコヤガイの真珠層よりも輝きが強いことに加え、マベ真珠はあこや真珠よりも長期間に亙って育てられるゆえに、あこや真珠よりも真珠層が厚くなります。





 マベ真珠は強い虹色に輝き、たいへん美しいですが、球形の真珠を作らせにくいので、大抵は貝殻に張り付いた半球形の真珠を作らせます。ただし田崎真珠は 1984年に球形のマベ真珠を作ることに成功しています。




(上) 一個のマベ真珠の合成写真 底面の直径 14.0ミリメートル、高さ 9.4ミリメートル、重量 1.7グラム 当店の商品です。


 あこや養殖真珠は、別の貝から採った外套膜外側上皮の切片を、ミシシッピ産カワボタンガイをはじめとする淡水二枚貝から作った球形の核に添えて、アコヤガイの生殖巣内に挿入します(註2)。これに対してマベガイの養殖真珠は、半球形の蝋石を貝殻の内面に固定させ、これを真珠層で被わせます。数年間養殖されたマベガイの貝殻には、厚い真珠層で覆われた美しい半球真珠ができあがります。半球形のマベ真珠は殻から切り離され、蝋石を取り除かれ、樹脂を充填されてジュエリー用の真珠になります。半球形マベ真珠の美しさはあこや真珠を凌ぎますが、落下させたりぶつけたりすると容易に壊れる欠点があります。


註1 マベガイの属名プテリア(Pteria)は、古典ギリシア語プテロン(希 πτερόν 翼)から作った形容詞の中性複数主格・対格形で、「翼状の物ども」の意。種名ペングイン(penguin ペンギン)はラテン語でもギリシア語でもないので格変化していない。

註2 これは西川藤吉と見瀬辰吉がそれぞれ独立に考案した方法で、ピース式と呼ぶ。ピース(英 piece)とは核に添えられる外套膜外側上皮の切片のことである。アコヤガイに養殖真珠を作らせる方法は他にも考案されたが、最も優れた方法として勝ち残ったのがピース式である。

 西川と見瀬がピース式を考案する以前、アコヤガイの養殖真珠はマベ真珠と同様の半球形ブリスター・パール(英 a blister pearl 貝殻の内面に付着した浮き彫り状の真珠)であった。当時欧米では半球形の真珠を枠に嵌めたジュエリーが多く作られ、御木本幸吉による最初期の半球形真珠はその需要を満たすものとして、欧米の人々に抵抗なく受け入れられた。後にできた球形の養殖真珠は欧米では容易に受け容れられなかったが、これは人の手が加わらない球形の天然真珠が、半球形の天然真珠に比べてはるかに高価であったためであろう。

 ちなみに天然真珠の重量はオンス(oz.)またはグレイン(gr.)で表す。養殖真珠の重量もかつてはグレインを単位にしていたが、第二次世界大戦後には世界的にモンメ(momme 匁)が使われるようになった。一モンメは 3.75グラムである。6.5ミリメートルの真珠十個で、およそ一モンメである。



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