バスコニア(西 Vasconia)はバスク文化圏のことで、バスク語のエウスカル・エリア(Euskal Herria)と同義です。ピレネー山脈のビスケー湾側をまたいでフランス南西部からスペイン北東部に広がりますが、面積、人口規模、バスク語の話者数ともスペイン側が中心となっています。最古のバスク語文献は十六世紀のもので、十九世紀末にはバスク語による文学が興隆しましたが、フランコ時代のスペインでは使用が禁じられていました。二十世紀末以降のスペインでは、バスク語による文学作品がいくつもの賞を受けています。
バスコニアはスペインとフランスに広がりますが、当地固有の原語であるバスク語はロマンス語ではなく、現代及び歴史上の如何なる言語とも類縁関係が不明です。本品に刻まれた文字も六十数万人のバスク語話者以外には意味が分からないので、指環の裏側にフランス語訳が刻まれています。
Suerte ona dut. Je porte bonheur. 我は幸運をもたらす。
ポルテ・ボヌール(仏 porter bonheur)は「幸運をもたらす、幸福をもたらす」と訳すのが普通ですが、動詞ポルテ(仏 porter)には身に着けるという意味もあります。したがって本品の銘には、この指輪によって私は幸福と幸運を身に着けている(この指輪を着けている私は幸福です)という意味にもなります。これから幸福・幸運がもたらされるのと、すでに幸福・幸運であるのとは、意味に微妙なずれがありますが、「この指輪を嵌めればすぐに幸福になれる」ということでしょう。
指環の材質は不明です。指環の裏側をルーペで観察すると、ポルト(porte)のウ(E)に重なって検質印のようなものが見えますが、不明瞭です。
バスコニアの領域は面積、人口とも大半がスペインに属しますが、本品は裏側にフランス語が刻まれているので、おそらくフランス領バスク(ヌーヴェル=アキテーヌ地域圏ピレネー=ザトランティック県)で制作された品物であろうと思います。
日本式表記による本品のサイズは、十七号と十八号の間(17 2/3号)です。上の二枚の写真は、女性モデルによる本品の着用例で、二枚目の写真ではアンティーク・ウォッチと取り合わせています。
本品の内側は滑らかで、快適にお使いいただけます。指環は綺麗な円形で、歪みはありません。