真正の線細工による重厚で華麗なペンダント 《ジランドル》 艶やかな黒と淡い金色の揺らめき 71.7 x 31.0 mm ピレネーまたはカタルーニャ 1900 - 1920年代


全高 71.7ミリメートル (自然に吊り下げたときの、下部の垂れ飾りを含む縦の長さ)

全幅 31.0ミリメートル


フランス南西部またはスペイン北東部  1900 - 1920年代



 真正の線細工による軽やかなペンダント。フランス語で「ジランドル」(仏 girandole)、スペイン語で「カンデラブロ」(西 tipo candelabro)と呼ばれるタイプです。下の写真は同じ物の表裏を撮影しています。商品の数は一点です。





 本品は金めっきまたは金張りを施した枠に、フランス語で「ジェ・ド・パリ」(仏 jais de Paris 「パリのジェット」の意)と呼ばれる黒色ガラスを嵌め込んでいます。金めっきの下地となる金属の種類は不明です。金はたいへん落ち着いた色で、硫化銀を思わせる黒ずみがところどころに見られるので、ヴェルメイユかもしれませんが、ポワンソン(仏 poinçon 貴金属の検質印)はありません。

 線細工のジュエリーを作るには二つの方法があります。一つ目は針金を曲げて溶接を繰り返し、広い面積の網状構造を作る方法です。もう一つは金属の板を網目状のパターンに打ち抜いて線細工に見せかける方法です。前者の方法はあまりにも時間と手間がかかり、コストの増加につながります。それゆえジュエリーが大量生産される場合には、後者の方法が使われます。

 しかるに本品は大量生産品ではありません。針金と植物モティーフの小部品、黒色石の台座、下げ飾りの環など、すべての部品を一つずつ手作業で溶接し、たいへんな手間を掛けて丁寧に制作されています。ジェ・ド・パリによる黒色石も、ひとつひとつが手作業で丁寧にカットされています。平らなクラウン面を作らないカットは、近年のものとは一線を画するクラシカルな表情を有します。全ての石は手間を惜しまず爪留めされています。


 本品はイベリア半島のジュエリーの特徴を色濃く備えていますが、フランス国内にあったものです。二十世紀のルシヨン(Roussillon フランス南西端)ではカタルーニャの品物に似たジュエリーが作られることがあったので、本品もおそらくルシヨンで作られたものと考えます。

 十九世紀のイギリスではセンチメンタル・ジュエリーが流行し、特にジェットとその模造石に人気が集まりましたが、黒色石は十九世紀末までに飽きられ、人気を無くしました。しかしながらフランスでは二十世紀に入ってもしばらくのあいだ、黒いジュエリーの人気が持続しました。本品は作りの点でも意匠の点でも二十世紀初頭から 1920年代頃に作られた品物と判断できます。





 金色と黒は豪華な印象を与える組み合わせですが、黒に艶が無い場合には却って貧相な安っぽさを感じさせる虞れがあります。しかしながら本品の金色には重厚な落ち着きがあり、黒のガラスは黒曜石にも似た艶を有します。そのため本品にはどのような場でも堂々と身に着けられる高級感が備わっています。

 「黒」を表す幾つかの漢字を、わが国では主に色調の違いで使い分けています。しかるにラテン語では黒の「艶」に注目して、二つの形容詞を使い分けています。黒を表す一方の形容詞「アーテル」(羅 ATER)は、ギリシア語「アイトー」(希 αἴθω 燃える)や「アイテール」(希 αἰθήρ 火が燃える天上界、第五元素)と同根で、燃え残りのように艶の無い黒を意味します。「アーテル」という形容詞が表すのは、光の欠如にすぎません。光が射し込まないアートリウム(羅 ATRIUM)の薄暗さが、「アーテル」です。「アーテル」の暗さには実体がありません。これに対してもう一方の「ニゲル」(羅 NIGER)は、黒曜石の断口や黒貂(くろてん セーブル)の毛皮のように輝く黒を表します。「ニゲル」の黒は実体に裏打ちされています。「ニゲル」は「カンディドゥス」(羅 CANDIDUS)の対語です。「カンディドゥス」は「白い」という意味の形容詞ですが、この語は動詞「カンデオー」(羅 CANDEO 輝く)に由来し、実体から輝き出る白さを表します。したがってその対語である「ニゲル」もまた実体から輝き出る黒さを指します。

 本品は「輝く黒」を「落ち着いた金色」と組み合わせた作例で、重厚な色彩を有します。しかるに意匠の点では繊細な線細工であり、僅かな振動や傾きによって大きく揺らめく線細工が、女性らしい繊細さと軽やかさを演出しています。相反するはずの属性、「重厚さ」と「繊細さ・軽やかさ」を無理なく両立させた本品は、優れた伝統意匠が持つ美的包容力の実例です。





 本品はペンダントの上半分と下半分が分離しているだけでなく、上半分の中心にある涙型の石も自由に揺れるように作られています。下半分は上半分から独立して大きく自由に揺れますし、最下部にある三つの下げ飾りもゆらゆらと良く揺れます。このようなジュエリーをフランス語で「ジランドル」(仏 une girandole)と呼びます。フランス語「ジランドル」はイタリア語の「ジランドーラ」(伊 girandola 風見)に由来し、自在に動くゆえにこの名で呼ばれます。回転する花火や噴水、小さな花の房、花綱状の電飾も、フランス語では「ジランドル」といいます。





 本品は百年近く前にピレネー近辺で制作されたと考えられる真正のアンティーク品です。向かって左端の下げ飾りが先端を欠いており、ガラス製のストーンにもところどころに欠損がありますが、本品が使い続けられた長い歳月を考えると、十分に良い保存状態です。実物は写真よりもずっと美しく、小さな瑕疵は気になりません。大量生産が本格化する前夜、一つひとつの品物が手間と時間をかけて丁寧に手作りされていた時代の記憶を留める華やかなジュエリーです。





28,800円

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