グラストンベリー・チェア
Glastonbury chair

イギリス 1900年頃

210,000円

イングランド南部サマセット郡にアーサー王伝説で有名な町グラストンベリーがあります。グラストンベリー修道院は現在では廃墟になっていますが、アーサー王の埋葬の地とされています。またこの町は癒しの地としても有名で、アリマタヤのヨセフが聖杯(十字架にかかったイエス・キリストの血を受けた器)を隠したとされる井戸の水は、さまざまな病を癒すといわれています。

この町に因んでグラストンベリー・チェアと呼ばれる椅子があります。グラストンベリー・チェアの特徴は、脚部がX型の枠組みを有し、その脚部に対して背面と座面が直角に取り付けられていることです。このタイプの椅子は中世初期に見られたあと、12世紀から14世紀にかけて製作が途絶えます。次に現れるのは15世紀のイタリアで、トリノのムセオ・チヴィコに作例が残っています。

【左上:15世紀半ばの作例。Franz Windisch-Graetz: Mobel Europas, Romanik-Gotik, fig. 203, Klinkhardt & Biermann, 1982





 またロンドンのヴィクトリア・アルバート美術館では
16世紀または17世紀初めの作例を見ることができます。

【左:Victor Chinnery: Oak Furniture, the British Tradition, fig. 3.3, Antique Collector's Club, 1979










 以上の椅子はいずれも座面よりも背面のほうが幅広で、両脇のアームが互いに対してまったく平行になるように作られています。これに対して当店の椅子と同様に、背面よりも座面のほうが幅広で、高くなるにしたがって両脇のアーム間の距離が短くなるように作られている作例が残っています。グラストンベリー近郊、ウェルズの大主教館に所蔵されている椅子がこれで、グラストンベリー修道院が取り壊された
1539年からまもない時期に製作されたと考えられ、この椅子を描いたヘンリー・ショーによるスケッチがヴィクトリア・アルバート美術館に所蔵されています。


【左:Henry Shaw: Specimens of Ancient Furniture, 1836 (Clare Graham: Ceremonial and Commemorative Chairs of Great Britain, fig. 32, Victoria & Albert Museum, 1994)



ウェルズ大主教館の椅子は19世紀に全体的な修復作業が行われたので、原状を正確に保っているかどうかは不明ですが、構造の点でも、またゴシック様式とルネサンス様式が混交した装飾の点でも、細部にいたるまで当店の椅子と酷似しています。当店のグラストンベリー・チェアには、ウェルズ大主教館のものと同様にラテン語の祈りが彫られています。内容は次のとおりです。

Da pacem Domine. Domine exaudi orationem nostram. Clamor noster ad te perveniat. Sit laus Deo.

主よ平安を与えたまえ。主よ私どもの祈りを聞きたまえ。私どもの叫びがあなたに届きますように。神に誉れがありますように。


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