ジュール=クレマン・シャプランによる佳品 「医療は心と手の共同作業である」 オディロン・ラヌロング教授のメダイユ


メダイユのサイズ 70.7 x 56.9 mm  厚さ 最大 5.5 mm  重量 131.4 g

フランス  1901年



 19世紀後半から20世紀初頭のフランスで最も高名な外科医であったオディロン・ラヌロング教授 (professeur Odilon Lannelongue, 1840 - 1911) のメダイユ。1871年にフランス共和国の軍医として奉職してから30周年を記念して、同時代の彫刻家ジュール=クレマン・シャプラン (Jules-Clement Chaplain, 1839 - 1909) が制作したものです。

  表(おもて)面には左側面から捉えたラヌロング教授の胸像を、あたかも生身の人物を眼前に見るかのように活き活きと写実的に浮き彫りにしています。知的で温厚な人柄をうかがわせるラヌロング教授の横顔は、医療を通じてフランスと全世界に貢献した医師としての誇りと喜びに溢れています。メダイユの最上部にはフランス語で「弟子一同より」(ses eleves)、「友人一同より」(ses amis) と刻まれ、最下部には次の献辞がフランス語で刻まれています。

  au professeur O. M. Lannelongue, membre de l'Institut et de l'Académie de Médecine  フランス学士院及びフランス医学会会員、O. M. ラヌロング教授に

 ラヌロング教授のプレノム(姓名の「名」)は「オディロン」ですが、メダイの名前が "O. M. Lannelongue" となっているのは、亡くなったマリ夫人と、親身になって世話を焼く姪マリに対する教授の愛情を知っていた友人と弟子たちが、マリ (Marie) の "M" を教授の名前に挿入したものです。実際、ラヌロング教授は、死の翌年に出版される著書「ある世界旅行」("Un tour du monde" , 1912, Larousse) の著者名を、旅行に同行した姪マリの名前の頭文字 "M" を入れて "O. M. Lannelongue" としています。

 メダイユ右端には彫刻家シャプランのサイン (J.-C.Chaplain) と、制作年を示す年号 "1901" が刻まれています。このメダイユが制作された1901年は20世紀の最初の年であり、人類進歩の思想が自明のこととして信じられていました。メダイユの作者シャプランは、数々の勲章や褒章を身に着け、堂々と威厳に満ちた医師の姿を刻むことにより、医学をはじめとする自然科学の勝利を高らかに謳っています。

 メダイユの裏面には四人の群像が浮き彫りにされています。右端の女性はキルルギア(シリュルジ Chirurgie)、すなわち「外科学」の寓意で、左手に穿頭用トレパンを持っています。左側には、手前に右腕を吊った男性、奥に女の子を抱いた女性が浮き彫りにされています。女の子は手術が必要な重篤な症状らしく、母の腕の中で意識を失っています。キルルギアは女の子の頭に優しく手を添えています。男性と女性は不安な面持ちでキルルギアの顔を見つめ、救いと慰めの言葉を待っています。画面上部に、次の言葉がラテン語で刻まれています。

  MENTIS MANUSQUE PAR OPUS.  医療は心と手の共同作業である。(註1)

 傷病からの恢復は、患者に対する心のケアが大きな影響を与えます。ラヌロング教授は経験を積んだ医師として、患者に対する接し方が予後を左右することを十分によく知っていたでしょう。フランス語のシリュルジ(chirurgie 外科学)は「手(ケイル cheir)の技(エルゴン ergon)」という意味のギリシア語に由来しますが、屈強な兵士から幼い子供まで、あらゆる患者の治療に実績を残したラヌロング教授は、たとえ外科領域の治療であっても手技のみに偏らず、心のケアをも重視する全人的な治療方針を採用していたことがわかります。

 医師であるラヌロング教授と、彫刻家であるシャプランは、活躍した分野こそ異なりますが、19世紀のフランスに、いずれも大きな足跡を遺した人物です。シャプランによるこのメダイユは、優れた出来栄えゆえに、メダイユ彫刻史上とりわけ有名な作品のひとつで、パリのカルナヴァレ美術館にも、本品と同じものが収蔵されています。

 このメダイユが美術史上高く評価されている理由は、名医ラヌロング教授の姿形のみならず、人格さえもが見事に写し取られているからでしょう。名医の人格をブロンズの板に写し取るという仕事は、19世紀フランスが生んだ最高のメダイユ彫刻家のひとり、ジュール=クレマン・シャプランにしてはじめて為し得た偉業と言ってよいでしょう。





 メダイユは 70 x 56 ミリメートル、最大の厚さ 5.5ミリメートル、重量 131.4グラムとたいへん立派なサイズで、手に取るとずしりとした重みを感じます。コンディションは百年以上前のものとはにわかに信じ難いほど良好で、表裏いずれの突出部分も摩耗していません。全体的に特筆すべき問題は無く、制作当時のままの状態です。真正のアンティーク品ならではのパティナ(古色)が全体を均一に被っています。ご希望により、別料金にてメダイユを額装いたします。額装料金は使用する額によって異なります。





メダイユの価格 68,000円 (税込・額装別)

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




註1 "MENTIS OPUS ET MANUS OPUS PAR EST." の意味に解しました。MANUSは属格。PARは「ペア」「ひと組」を表す中性名詞。直訳すると「心の技(わざ)と手の技は、不可分のひと組 (PAR) である」となります。






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