アルフェ・デュボワとエルネスト・ポーラン・タッセの共作 ナチュール(自然)と農業のブロンズ製メダイユ オリジナルの箱入り


メダイユの直径 50.6 mm  厚さ 最大 4.3 mm  重量 54.5 g

19世紀後半  フランス



 ふたりの著名なメダイユ彫刻家、アルフェ・デュボワ (Alphée Dubois, 1831 - 1905) とエルネスト・ポーラン・タッセ (Ernest Paulin Tasset, 1839-1919) による古典的なメダイユ。珍しいことに、オリジナルの箱が綺麗な状態で残っています。





 表(おもて)面には農作業をするプッティ(翼がある子供)を浮き彫りにしています。プッティが四人であれば四元素を表します。ラファエロは署名の間に四元素のプッティを描いていますし、ティントレットもドージェ宮(Palazzo Ducale, Venezia)に四人の裸の幼児を描いて四季を表しています。しかるに本品のプッティは三人で、一人は大地を鋤(す)き、一人は種を播いて水をやり、一人は果樹の剪定にいそしんでいます。本品に表された三人のプッティは、自然(ナチュール)の恵みを引き出すオプス(羅 OPUS 働き、作業、農作業 übenと同語源)を可視化したものといえましょう。オプスには別形があって、母音ウー(U)を欠くオプス(羅 OPS)です。後者のオプス(OPS)は働く力、働きによってもたらされる豊かさ、財産を意味し、豊穣の女神として人格化されて、大地の神プルートーの妻となっています。


 ヨーロッパ語のナチュール(仏 nature 希 φύσις 羅 NATURA 独 Natur)は明治時代に「自然」と訳されました。しかしながらヨーロッパ語のナチュールに「自ずから然り」という意味はありません。

 ギリシア語ピュシス(φύσις)はピュオー(φύω 生み出す)の名詞形であり、「生み出す力」という意味です。ラテン語ナートゥーラ(NATURA)もナースコル(NASCOR 生み出す)の名詞形であり、やはり「生み出す力」という意味です。ナースコルの元の語形はグナースコル(GNASCOR)で、この語の語根 gen- は印欧基語において生成、産出を表し、ラテン語ギグノー(GIGNO 生み出す)、ギリシア語ゲンナオー(γεννάω 生み出す、生ませる)、ギグノマイ(γίγνομαι 生まれる)の他、GENUS, γένεσις(genesis)等もこの語根を有します。

 ドイツ語に関して言えば、十七世紀当時、フランス語が過剰に借用される風潮に抵抗して、ドイツ語の純化に取り組んだ文法家たちがいました。その急先鋒がフィリップ・フォン・ツェーゼン(Philipp von Zesen, 1619 - 1689)で、当時十分にドイツ語に溶け込んでいたラテン・フランス語系の単語もドイツ語で置き換えようとしました。このツェーゼンは、ナトゥーア(独 die Natur)をツォイゲムター(独 die Zeugemutter)、すなわち「産み出す母」と訳しています。ツォイゲムターという新奇な語は結局ドイツ語に定着しませんでしたが、ツェーゼンがナトゥーアを「産み出す母」と訳したという事実は、印欧基語まで遡るナトゥーアの語根 gen- の意味を、ドイツ人が正しく把握している証拠といえましょう。

 要するにフランス人をはじめとするヨーロッパ人にとって、自然(ナチュール)は実りをもたらす力動的な「はたらき」なのです。したがってこのメダイユで農作業をするプッティは、農作業をする人間を単に可愛らしい姿に変えて表したのではなく、ナチュール自体が持つデュナミス(力)、およびナチュールのデュナミスを引き出す農作業を重層的に可視化、擬人化したものです。フランス語ナチュール、ギリシア語ピュシス、ラテン語ナートゥーラはすべて女性名詞ですから、擬人化するならば女神の姿をとるはずですが、このメダイユにおいて幼児の姿で表されているのは、ナチュールの生命力、植物の生長する力を強調した表現と考えることができます。





 メダイユの裏面は花輪状に並べた果物と花卉(かき)の美しい浮き彫りで飾られています。果物のなかにはデイツ(ナツメヤシの実)やパイナップルなど南国産のものも見えますが、これらはフランスの海外領土・植民地で採れる作物を象徴しています。

 裏面の最下部に彫刻家エルネスト・ポーラン・タッセ(Ernest Paulin Tasset, 1839-1919)の署名が刻まれています。





 メダイユの縁には「ブロンズ」(BRONZE) の文字、及びコルヌ・コーピアエ(CORNU COPIAE 豊穣の角)のプリヴィ・マークが刻印されています。コルヌ・コーピアエは、1880年から1929年までの間にモネ・ド・パリ(La Monnaie de Paris パリ造幣局)で鋳造されたメダイユに刻印されるプリヴィ・マーク(ミント・マークの一種)です。


 ヨーロッパ随一の農業国であるフランスは、農業をテーマにしたいくつものメダイユを発行しています。このメダイユもそういったもののひとつで、いかにも十九世紀らしい優美なデザインによって、自然(ナチュール)の大きな力と恵みを描き出します。人類進歩の思想が自明のことと考えられていた時代に製作され、希望に満ちた明るい雰囲気があふれる作品に仕上がっています。

 このメダイユは百数十年前に製作された真正のアンティーク品ですが、箱に入って保存されていたため、製作当時のままの良好な保存状態です。表裏いずれの突出部分にも摩耗はまったく無く、美しいパティナ(古色)が全体を均一に被っています。





メダイユの価格 42,000円 (税込・額装別) 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。ご希望により、別料金にてメダイユを額装いたします。額装料金は使用する額によって異なります。




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