19世紀のフランスを代表するチョコレートとココアのメーカー、ショコラ・ドヴァンク (Chocolat Devinck) の小さな絵。質が良く厚みのある中性紙に刷られています。
表(おもて)面には、二人の女の子が人形で遊ぶ微笑ましい光景が描かれています。向かって左側にいる赤い服の女の子は、人形のお母さんになりきっているらしく、人形に両手を差し伸べて、「大変なのは最初の一歩だけよ」と励ましています。人形は女の子たちと同い年ぐらいの姿に作られているように見えますが、いまはよちよち歩きを始めようとする赤ちゃん役なのでしょうか。あるいは病気か怪我から回復する訓練中なのでしょうか。
「大変なのは最初の一歩だけ」(Il n'y a que le premier pas qui coûte.) という言い回しは 19世紀頃に成立したことわざですが、ここでは文字どおりの意味に使われています。現代のフランス語では、飲酒や喫煙などの悪い習慣に関して、この表現を戯言的に使うことがあります。
少女たちの頭上には、「ショコラ・ドヴァンク」(Chocolat Devinck) と書かれています。このメーカーの創業者フランソワ=ジュール・ドヴァンク(François-Jules
Devinck) は 1840年代の終わり頃にカカオ豆の優れた焙煎装置を開発したことで知られています。
下の縁にはパリ、ベランジェ通り5番地にあったリトグラフの版元、ヴァレ・ミノ (Vallet, Minot & Cie) の名前が書かれています。この版元の名前が "Lith. Vallet, Minot & Cie, 5, rue Beranger, Paris" と表記されている場合、1881年から 1884年の間に刷られた製品です。
画面左下にあるマーク "VM" は、ヴァレ・ミノのモノグラムです。裏面は白紙です。
本品はおよそ130年前のパリで製作されたものですが、それほどまでに古い物とは思えない良好な保存状態です。