ジョージ・ヴィカット・コウル作 「にわか雨」 チャールズ・カズンによるインタリオ スティール・エングレーヴィング及びエッチング イギリス 1876年

Showery Weather


原画の作者 ジョージ・ヴィカット・コウル (George Vicat Cole, 1833 - 1893)

版の作者 チャールズ・カズン (Charles Cousen, c. 1813 - 1889)


画面サイズ  縦 170 mm  横 250 mm



 ジョージ・ヴィカット・コウル(George Vicat Cole, 1833 - 1893)の風景画を、高名なエングレーヴァー、チャールズ・カズン(Charles Cousen, c. 1813 - 1889)が鋼板のインタリオで描いた美しい作品。1876年に制作されたエングレーヴィング及びエッチングです。拡大写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。


《原画の作者について》

 ジョージ・ヴィカット・コウル(George Vicat Cole, 1833 - 1893)はイングランド南部、ポーツマスに生まれた画家で、著名な風景・動物・肖像画家であり英国芸術家協会副総裁を務めたジョージ・コウル(George Cole, 1810 - 1883)の息子です。

 青年時代にターナー、コンスタブル、コックスの絵を模写して訓練を重ねたこともあって、彼の絵にはこの三人の強い影響が見られます。 1850年代初めに画家として独立した頃は作品がなかなか売れませんでしたが、1852年にブリティッシュ・インスティテューションに出展し、またとりわけ1854年に王立アカデミーの夏の展覧会に出展して以来、彼の作品は優れた風景画として注目を集めるようになりました。1870年にはその年度で唯一の画家としてアカデミー準会員に選ばれ、1880年にはアカデミー正会員になっています。

 ヴィカット・コウルは十九世紀のイギリスにおいて最も重要な風景画家のひとりであり、当時の美術界の特徴でもある自然主義的な作風、つまり象徴的な意味を付与したり牧歌的な理想化を施さずに、ありのままの風景美を描く作風によって大きな人気を集めました。

 彼が主に描いたのはイングランド南東部のサリー(Surrey)、サセックス(Sussex)周辺の美しい風景とテムズ川で、テート・ブリテンには代表作のひとつ ≪ザ・プール・オブ・ロンドン≫(カンヴァスに油彩、195 x 305.5 cm、1888年)が収蔵されています。ザ・プール・オブ・ロンドンとはロンドン橋のすぐ下流にある水域で、外洋船はここまで航行できることになっています。


《版の作者について》


 ジョン・カズン(John Cousen, 1803 - 1880)とチャールズ・カズン(Charles Cousen, 1819 - 1889)の兄弟はイングランド北東部、ヨークシャーに生まれた画家で、高名なエングレーヴァーでもあります。ターナー作品をはじめ、フィンデン兄弟(Edward Francis Finden, 1791 - 1858, William Finden, 1787 - 1852)が中心になって制作した非常に豪華な画集「ロイヤル・ギャラリー・オブ・ブリティッシュ・アート」(Royal Gallery of British Art, 1838-49)やエディンバラの出版社ブラック(Adam & Charles Black)が出した美しい画集「絵入りスコットランド旅行案内」(Picturesque Tourist of Scotland, 1849)、またウォルター・スコット作品のための挿絵など、多数の優れたエングレーヴィングで知られています。

 チャールズ・カズンによる1870年代の作品は、エッチングを多用していることが特徴です。チャールズ・カズンは 1879年にエングレーヴィングを重視する作風に回帰しますが、1876年に制作された本品は、空と川面以外のほぼ全面に細密なエッチングが用いられています。1874年に制作された「トワイライト・イン・ザ・ウッド」("Twilight in the Wood", 1874)、1875年に制作された「ティンタン修道院 ― ワイ川の月あかり」("Tintern Abbey - moonlight on the Wye", 1875)にも、同様の傾向が見られます。


《この作品について》

 ウエスト・サセックスのアラン川(the Arun)を描いたインタリオ。アラン川はコウルの故郷ポーツマスにほど近い川で、コウルの絵筆は故郷の美しい風景を愛情を込めて描き出しています。

 晴れていた空が急に雨雲に蔽われ、水辺の葦や画面中央の大きなニレの木がざわざわと葉を鳴らし始めています。画面の右側と上側は光をさえぎられて暗くなっていますが、アラン川にはまだ明るい光が当たって、水面はきらきらと輝いています。人物がひとり描かれていますが、彼をグレーの馬にまたがらせて中央に配置した構図は秀逸です。

 大気と光の効果をカンヴァスに表現するヴィカット・コウルの能力は一流で、木の葉や草のさざめきでにわか雨が降り始める直前の大気の動きを表現し、また透明な川の水にあふれる光を木々や馬といった小道具の配置で強調して、雲と光の織り成す綾を巧みに描き出したこの作品にも、この画家ならではの優れた才能が感じられます。





 若き日のジョージ・ヴィカット・コウルが模写を重ねたターナー、コンスタブル、コックスは、いずれも美術史上特筆すべき業績を遺した先進的な風景画家で、それぞれに異なる思想、方法、持ち味を有します。

 ターナー(Joseph Mallord William Turner, RA, 1775 - 1851)はクロード・ロラン(Claude Lorrain, c. 1600 - 1682)を大いに尊敬し、ロランと同じく風景画における劇的効果を追究しました。イギリスの先人でいえば、サー・ジョシュア・レイノルズ(Sir Joshua Reynolds, RA FRS FRSA, 1723 - 1792)の系統に連なる画家であるといえます。

 これに対してターナーと同時代の画家コンスタブル(John Constable, RA, 1776 - 1837)は、ターナーのように伝統を意識せず、美しくはあっても劇的ではない身の回りの風景を、あるがままに誠実に写し取ろうと試みました。コンスタブルはサー・ジョシュア・レイノルズと同時代のゲインズバラ(Thomas Gainsborough, 1727 - 1788)に連なる画家です。

 ターナー、コンスタブルと同時代のコックス(David Cox , 1783 - 1859)は、十九世紀前半のイギリスにおける最高の水彩風景画家であり、その作品はこの時代のイギリス風景画の到達点と見做されています。コックスはターナー、コンスタブルと同様に、印象派の先駆者と考えられています。

 これら三人を師と仰いだコウルの筆は、作品ごとに異なる表情を見せてくれます。コウルは本品を描いた際に、理想化や劇的効果を排した誠実な筆遣いにより、故郷を流れるアラン川を、あるがままの姿に写し取っています。時間の経過に従って移り行く外光のみならず、川面の煌めき、流れる水音、風のそよぎまでもを捉えたコウルの筆は、モノトーンの画面に色彩さえ感じさせるエングレーヴァー、チャールズ・カズンの腕の冴えにより、1870年代から 1890年代にかけて頂点を迎えたイギリス風景画の美を、余すところなくいまに伝えています。


《額装について》

 版画は未額装のシートとしてご購入いただくことも可能ですが、当店では無酸のマットと無酸の挿間紙を使用し、美術館水準の保存額装を行っています。下の写真は本品の額装例で、額は太子サイズです。額の外寸は、41 x 31センチメートルです。この額装の価格は 18,800円です。




 額の色やデザインを変更したり、マットを替えたりすることも可能です。白や各色の無酸カラー・マットが使えますし、赤や青、緑、ベージュ等のヴェルヴェットを無酸マットに張ることもできます。

 アンティーク・インタリオ(エッチング及びエングレーヴィング)の細密さは、原寸大の写真によって再現することができません。コンピューターのモニターで表示するために、版画の全体像を把握しやすいサイズまで画素数を落とすと、細部はすべて失われます。細部がどのように彫られているかを示すためには、版画の数か所を選んで接写し、顕微鏡写真のような拡大写真で示すしかありませんが、拡大写真は現物のサイズとかけ離れています。これに加えて、現物のアンティーク・エングレーヴィングは、拡大写真でも判別が困難な細密さを有しており、それらの細部は版画作品の全体を肉眼で見たときの驚くべき写実性に貢献しています。

 私がここに書いていることを理解するには、現物をご覧いただくしかありません。アンティーク・エングレーヴィングの現物は写真で見るよりもはるかに美しく、購入された方には必ずご満足いただけます。


 版画を初めて購入される方のために、版画が有する価値を解説いたしました。このリンクをクリックしてお読みください。


《参考写真》

(下) George Vicat Cole, Gathering Firewood, 1860 watercolor and gouache, 345 x 500 mm, private collection




(下) George Vicat Cole, Summer Showers, 1877 oil on canvas, 1245 x 1830 mm




(下) George Vicat Cole, The Pool of London, 1888 oil on canvas, 1950 x 3055 mm






エングレーヴィングの本体価格 58,800円 (額装別)

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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