稀少品 ドメニキーノ 「アレクサンドリアの聖カタリナ」 F. ノウルによるスティール・エングレーヴィング 1858年

St. Catherine



原画の作者 ドメニキーノ(Domenico Zampieri, 1581 - 1641)

版の作者 フリードリヒ・ ノウル(Johann Heinrich Friedrich Ludwig Knolle; 1807 - 1877)


版画の画面サイズ  縦 250 mm  横 210 mm

マットに開けた窓のサイズ  縦 290 mm  横 220 mm


額全体のサイズ  縦 450 mmmm  横 370 mm 四つ切りサイズ、木製




 ドメニキーノの絵画をエングレーヴィングで再現した作品。十九世紀版画芸術の頂点です。ドメニキーノの原作はウィンザー城にあります。フリードリヒ・ノウルによる本作品は、当店の他、大英博物館にも収蔵されています(Registration number: 1872,1012.2390)。


≪原画の作者について≫

 ドメニコ・ザンピエリ、通称ドメニキーノは1581年にボローニャで生まれ、当地でロドヴィコ・カラッチ(Lodovico Caracci, 1555 - 1619) の弟子となりました。当時ローマではアンニバーレ・カラッチの指揮の下、ファルネーゼ宮の造営が進んでいましたが、若きドメニキーノは1602年、ボローニャの他の画家たちとともに彩管を揮いました。その後ドメニキーノはローマの美術界でも最も重要な存在となり、数々の事業に関わっています。

 ドメニキーノはバロックの画家に属しながらも、抑制のきいたクラシカルな画風が特徴で、ニコラ・プッサン (Nicolas Poussin, 1594 - 1665) やクロ-ド・ロラン (Claude Lorrain, c. 1600 - 1682) に大きな影響を及ぼしました。


≪この版画について≫



 4世紀初めの殉教者にして処女、アレクサンドリアの聖カタリナを描いたエングレーヴィング。中世に流布したヤコブス・デ・ヴォラギネの聖人伝「レゲンダ・アウレア」によると、聖カタリナはコンスタンティヌス大帝のいとこにあたる高貴な血筋で、アレクサンドリアの女王でした。それゆえこの作品においてカタリナは王冠を被り、高価な衣装とジュエリーを身に着けています。またイエズス・キリストの花嫁として、頭に薄絹のヴェールを被り、左手の薬指には結婚指輪をはめています。右手には殉教者の徴であるナツメヤシの葉を持っています。向かって左奥に見える釘付きの車輪は拷問と処刑の道具で、聖カタリナの象徴です。





 写真術が十分に発達していなかったこの時代、絵画の複製は銅版画によって行われました。多く使われた銅版画の技法にはフォトグラヴュアエッチングエングレーヴィングがあります。このなかで前二者はそれぞれカメラ・オブスクーラを使う技法、手作業で絵を描く技法ですが、いずれも酸により銅を腐蝕させて製版します。

 これらに比べて格段に技術と労力を必要とするのはエングレーヴィングです。エングレーヴィングにおいては銅を酸で腐蝕させるのではなく、グレイヴァー(フランス語ではビュラン)という彫刻刀を使って、人間の力で銅板にインク溝を刻んでゆきます。刷りあがった画面の明るい部分にあたる溝には破線、暗い部分は途切れの無い線が刻まれ、特に暗い部分ではクロスハッチでできる菱形の内部に点を刻んでいます。またそれぞれの線の幅と深さを調節することによって、溝に入るインクの量が適正になるように計算し尽くされています。







 下の拡大写真はいずれも実物を撮影したもので、定規のひと目盛は一ミリメートルです。エングレーヴィングの製版がいかに熟練を要する細かい作業であるかがわかります。







 エングレーヴィングはあまりにも多大な労力を要するため、作品の全面に用いられることは稀で、ほとんどの場合はエッチングと併用されています。たとえば下のカニヴェにおいて、エングレーヴィングが用いられているのは聖ヨセフの衣のみで、残りの部分はエッチングによります。

聖ヨセフへの執り成しの祈りのカニヴェ (シャルル・ルタイユ # 15) フランス 1870 - 80年代


 しかしこの「聖カタリナ」はすべての部分をエングレーヴィングで製作した珍しい作例です。手作業で刻んだ溝でこれほど大きな画面を埋め尽くすには、気の遠くなるような労力と人間離れした集中力が必要です。

 本品の版を制作したフリードリヒ・ノウル(Johann Heinrich Friedrich Ludwig Knolle; 1807 - 1877)はドイツ人で、「アート・ジャーナル」("The Art Journal")の版元であるヴァーチュー社(J. S. Virtue and Co., London)のために作品を制作しています。本品「アレクサンドリアの聖カタリナ」は、円熟期を迎えたフリードリヒ・ノウルによる最高傑作です。

 この作品において、年若き処女カタリナは美しい柔肌を、着心地の良い布地の衣に包んでいます。乙女の素肌の柔らかさ、心地よい衣の手触り、薄絹のヴェールの空気のような軽さ、肩に羽織った刺繍入りマントの高級感、王冠とブローチと指輪が見せる硬質の輝きが、すべて眼前にあるかのように再現されています。聖女の体温が感じられるかのような錯覚さえも覚えます。





 本品は無酸のマットと無酸の挿間紙を使用し、美術館水準の保存額装を施しました。上の写真は額装済の実物を撮影したもので、四つ切りサイズの木製額に、赤色ヴェルヴェットを張った無酸マットを使用し、マットの内側の縁には金色の縁を取り付けています。この額装の本体価格は 31,000円です。

 版画を初めて購入される方のために、版画が有する価値を解説いたしました。このリンクをクリックしてお読みください。





税込み価格 196,900円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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