稀少品 リチャード・アンズデル作 「グラナダの山羊飼い」 チャールズ・カズンによる美麗インタリオ 細密エッチングの名品 1873年

Goatherd of Granada


原画の作者 リチャード・アンズデル (Richard Ansdell, 1815 - 1885)

版の作者 チャールズ・カズン (Charles Cousen, 1819 - 1889)


画面サイズ  縦 259 mm  横 197 mm



 リチャード・アンズデルがスペインをテーマに描いた油彩画を基に、チャールズ・カズンが制作したインタリオ。1873年のアート・ジャーナルで発表された作品です。


《原画の作者について》

 リチャード・アンズデル(Richard Ansdell, 1815 - 1885)は牧畜や狩猟の風景、人々の生活を描く風俗画を得意にした画家で、エングレイヴァーでもありました。当時芸術の中心地であったリヴァプールに貧しい孤児として育ち、画家になることをようやく真剣に志したときにはすでに21歳であったにも関わらず、めきめき頭角をあらわしました。1840年には二点の作品をロンドンの王立アカデミーの展覧会に出品、1845年にはリヴァプール・アカデミーの総裁に選ばれました。1848年にはロンドンに移り、ジョン・フィリップ(John Phillip, 1817 - 1867)とともにスペイン旅行を経験します。スペイン旅行はフィリップの場合と同様アンズデルにも大きな影響を与え、スペインでのスケッチに基づく作品は彼の絵のなかでも最も有名なものとなりました。

 アンズデルの数々の作品は版画になって人気を博しました。特にイングランド北部ではたいへんな人気があり、1861年にロンドンからノース・ランカシャーのライサン(Lythan)に引っ越したときは道路や鉄道にアンズデル通り、アンズデル線等の名前が付いただけでなく、ついにはアンズデル町まで誕生したそうです。


 リチャード・アンズデル


《版の作者について》

 チャールズ・カズン(Charles Cousen, 1819 - 1889)とジョン・カズン(John Cousen, 1803 - 1880)の兄弟はイングランド北東部、ヨークシャーに生まれた画家で、高名なエングレーヴァーでもあります。ターナー作品をはじめ、フィンデン兄弟(Edward Francis Finden, 1791 - 1858, William Finden, 1787 - 1852)が中心になって製作した非常に豪華な画集 "Royal Gallery of British Art" (1838 - 49)やエディンバラの出版社ブラック(Adam & Charles Black)が出した美しい画集 "Picturesque Tourist of Scotland"(1849)、またウォルター・スコットのための挿絵など、多数の優れたエングレーヴィングとエッチングで知られています。


《この版画について》

 1855年秋、アンズデルはジョン・フィリップ(John Phillip, 1817 - 1867)とともにスペインを訪れます。フィリップにとっては二回目、アンズデルには初めてのスペイン旅行でした。ふたりはグラナダに居を定めて、フィリップはジプシーの習作、アンズデルは家畜と牧人の習作に励みました。





 「グラナダの山羊飼い」はアンズデルがスペインをテーマに描いた作品のなかでも最も美しいものです。少年はロバにまたがって、田舎の村からグラナダの町に向かっています。搾乳用の雌山羊が何頭か、ついてきています。ロバの背に載せられたかごには、幼すぎて長距離を歩けない子山羊たちの可愛らしい姿が見えます。

 動物たちを連れた山羊飼いの少年は、明るい尾根道を通っています。絵の手前右側にはコンキスタドレスが新大陸から持ち帰ったマゲイ(リュウゼツラン)が描かれて南国風の情趣を感じさせ、尾根道の雑草もすでに伸び初めていますが、背景の高山には雪がたくさん残っており、季節は春であることが分かります。

 驢馬の背に乗る子山羊たちは、いずれも生後一か月ほどに見えます。山羊の繁殖期はだいたい秋から冬で、妊娠期間は五か月です。この絵の子山羊たちは三月頃に生まれたのでしょう。このひと月で寒さは大きく和らぎ、爽やかな春の風が子山羊たちの柔らかな毛をなぶっています。





 「グラナダの山羊飼い」は画面が上下にほぼ二等分されています。上半分にあるのは晴れた空と残雪の山肌で、極めて明度の高い背景となっています。驢馬に乗った少年の体は、その全体が画面の上半分に持ち上げられているために逆光となっています。とりわけ少年の顔は帽子の陰になっているために、順光で描かれた画面の下半分に比べると、細部が判別しづらくなっています。

 アンズデルの原画に見られるこのような特徴を、版画によって忠実に再現するために、版画家チャールズ・カズンは画面の部分ごとに使用する技法を切り替え、表現の効果を追求しています。具体的に言うと、チャールズ・カズンは画面上半分の背景、及び中景の山肌にエングレーヴィングを使いつつも、作品の主要部分はエッチングで制作しています。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。

 十九世紀のインタリオは、ほとんどの場合、人の肌をスティプル・エングレーヴィングで彫ります。しかるに「グラナダの山羊飼い」において、チャールズ・カズンは少年の顔をスティプル及びエッチングの線で描いています。線ではなくスティプルのみで明度を落とすと細部が明瞭になり過ぎて、少年の顔が「明色の空を背景にした逆光であり、しかも帽子の陰になっている」という状況を、肉眼で見た通りの質感で再現できないからです。

 少年の全身に関して言えば、やはりエングレーヴィングではなくエッチングが援用されています。エングレーヴィングは細部を明瞭に描写するのに向いており、また画面の質感もいくぶん硬くなる傾向があります。しかるにエッチングは細密な描写を為し得る一方で、柔らかな表現を得意とします。「グラナダの山羊飼い」において少年が身に着けている衣服は、都会に住む上流紳士が着ているようなものではなく、粗末なカミサ(シャツ)と、やはり粗末な上着、毛皮のチョッキです。上着はボタンが一個、取れているようです。このような衣服の質感を表すためには、エングレーヴィングよりもエッチングが適しています。





 動物もエッチングで制作されています。動物の種類によっては、艶やかな毛並みを表現するのにエングレーヴィングが適している場合もあります。しかし山羊は、アンゴラ種やカシミア種は別として、刺し毛が硬くて粗く、ラノリンに被われた羊毛のように艶やかでもありません。それゆえチャールズ・カズンは山羊をエッチングで描いています。





 前景の地面は一つ一つの礫や短い草を細密に描き、曲率が大きい長さ一、二ミリメートルの線を多用しています。このような描写はエッチングの独壇場で、本品においても極めて細密なエッチングにより表現されています。

 以上で指摘したように、この作品がエングレーヴィングよりもエッチングを多用するのには技法上の理由があります。しかしながらその一方で、本品を製版したエングレーヴァー、チャールズ・カズンは、1870年代にはほぼ全面的にエッチングのみを使用し、数々の名作を世に送り出しました。本品は 1870年代のチャールズ・カズンの特徴がよく顕れた名品です。









 版画は未額装のシートとしてお買い上げいただくことも可能ですが、当店では無酸のマットと無酸の挿間紙を使用し、美術館水準の保存額装を提供しています。上に示した三点の写真は額装例で、外寸 40 x 31センチメートルの木製額に、ヴェルヴェットを張った無酸マットを使用しています。この額装代金は、いずれも 24,800円です。

 額の色やデザインを変更したり、マットを替えたりすることも可能です。無酸マットに張るヴェルヴェットはベージュ等にも変更できますし、ヴェルヴェットを張らずに白や各色の無酸カラー・マットを使うこともできます。


 版画を初めて購入される方のために、版画が有する価値を解説いたしました。このリンクをクリックしてお読みください。





版画の本体価格 68,800円 (額装別)

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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