アロンゾ・チャペル作 「シャルロット・コルデー」 エングレーヴィングのみによる精緻な作品 1860年代

Charlotte Corday, Likeness after an original painting by J. Champagne


スティール・エングレーヴィング  1860年代


画面サイズ  縦 265 mm  横 197 mm



 フランス革命を指導した政治家のひとりであるジャコバン派のマラー(Jean-Paul Marat 1743-1793)を暗殺した若く美しい女性、シャルロット・コルデー(Marie-Anne Charlotte Corday d'Armont 1768-1793)の肖像画。

 シャルロット・コルデーは1768年、ノルマンディの小さな村に生まれました。子供の頃に母を亡くし、カーンの修道院に預けられました。虫一匹殺せない優しい性格で、本を愛し、修道女として一生を送ることを願う物静かな女性であったと言われています。

 1793年6月、彼女が24才のときにパリでクーデタが発生し、過激なジャコバン派との政争に破れて国民公会を追放されたジロンド派(穏健派)が、彼女が住むカーンの街に逃れてきました。ジャコバン派がどれほど邪悪で恐ろしい党派であるかということをジロンド派から繰り返し聞かされたシャルロット・コルデーは、ジャコバン派の指導者のひとりであるマラーを暗殺する決心を固めます。ジャコバン派のなかで、実はマラーは比較的穏健な人物でした。狂気の恐怖政治家ともいうべきロベスピエールが死刑宣告を下した人々を、マラーは何度も助けています。しかし情報網が発達していない当時のこと、シャルロット・コルデーは不完全な情報を吹き込まれて、マラーこそがフランスの敵であると思い込んでしまったのです。

 7月13日、彼女は一緒に暮らしていた叔母に別れを告げてひとりでパリに行き、マラーに面会を求めます。入浴中のマラーの部屋に通された彼女は、カーンでたくらまれている陰謀の情報を教えるふりをしてマラーに近付き、隠し持っていたテーブルナイフの一突きでマラーを暗殺しました。
 彼女には人を傷つけた経験などもちろん無かったのですが、偶然にうまくいったのでしょう。ナイフはマラーの肋骨の間を通って肺動脈を切断し、マラーはほぼ即死でした。彼女はその場で捕らえられ、4日後の7月17日、即決裁判で死刑を宣告されて、その日のうちにギロチンで処刑されました。25歳の誕生日の10日前のことでした。

 彼女は死の直前、教誨師に懺悔をする代わりに、フランス国民軍の士官であったジャン・ジャック・オエ (Jean Jacques Hauer) という人に肖像画を描いてもらうことを選び、自分の髪のひと房をお礼に贈りました。このエングレーヴィングは、そのときの絵を元に製作されています。シャルロット・コルデーは手にナイフを持っており、後ろのテーブルには祈祷書とロザリオが置かれています。


ジャン・ジャック・オエによるデッサン(ヴェルサイユ、ランビネ博物館蔵)




 シャルロット・コルデーの処刑を見た人たちのなかには彼女の美しさに惹かれた男性も多く、ある人は「私はその後八日間、シャルロット・コルデーに恋をしていた」と書き残しています。

 彼女は心優しい普通の女性だったのですが、清楚な美貌に感動したロマン派の詩人ラマルティーヌ(Alphonse de Lamartine 1790-1869)によって、いかにもロマン派の命名らしく「暗殺の天使」と呼ばれました。またマラーの友人であった古典主義の画家ダヴィド(Jacques-Louis David 1748-1825)は、暗殺の年に製作した名画 「マラーの暗殺」で友人の死を悼みました。


(下) Jacques-Louis David, La Mort de Marat, 1793 カンヴァスに油彩 162 × 128 cm ベルギー王立美術館蔵




【原画の作者について】

 アロンゾ・チャペル(Alonzo Chappel, 1828-1887)はニューヨークに生まれ、すでに9歳のときには1枚10ドルで依頼者の肖像画を描いていました。12歳のときには1枚25ドルに「値上げ」しましたが、それでもアロンゾ少年が描く肖像画は人気がありました。

 彼は歴史にも強い関心があり、アメリカ史上のできごとを残らず絵にしたいという野心を持っていました。彼は出版社と契約を結んでアメリカ史に取材した絵を描き、出版社は彼の絵をもとにエングレーヴィングを製作しました。アロンゾの絵はいまでも社会科の教科書に使われ、「ワシントン大統領の就任式」という作品はワシントンの大統領就任150周年記念切手にも採用されています。彼が描いた絵は植民地時代から19世紀までのアメリカ史に残る重要なできごとをすべて網羅し、世界史上のできごとにも及んでいます。


【美術の題材としてのシャルロット・コルデー】

 Paul-Jacques-Aime Baudry, Charlotte Corday, 1858

 上の絵が描かれた当時のフランスはナポレオン三世による第二帝政期でした。そのためにシャルロット・コルデーは共和国派の犠牲になった愛国者として、背景のフランス地図に融け込んで一体になるように描かれています。


 Antoine Wiertz, The Assassination of Marat By Charlotte Corday, 1880

 上の絵が描かれた当時のフランスは第三共和政期でした。そのためにシャルロット・コルデーは「人民の友」マラーの邪悪な暗殺者として描かれ、農婦、兵士、サンキュロット、ブルジョワなど、第三身分に属するあらゆる人々に責め立てられています。


 Pablo Picasso, La Femme au stylet, 1931 カンヴァスに油彩 62 x 47 cm パリ、ピカソ美術館蔵

 コミュニストであったピカソはシャルロット・コルデーを人民の敵、抑圧者として描いています。彼の絵のシャルロット・コルデーは女性の姿さえしておらず、「人民の友」マラーに襲いかかる怪物のようです。


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