フランソワ=アルフレッド・ドロブ作 「ピューラモスとティスベー」 伝統的ヨーロッパ美術を決算する記念碑的作品 カマユーを再現した名品フォトグラヴュール 1878年

Pyrame et Thisbé / Pyramus and Thisbe


原画の作者 フランソワ=アルフレッド・ドロブ(François-Alfred Delobbe, 1835 - 1920)

版元 パリ、グピル社(Goupil et Cie, Paris)


パブリシャー フィラデルフィア、ゲビー・アンド・バリー社(Gebbie & Barrie, Philadelphia)


画面サイズ  縦 258 mm  横 157 mm



 1878年5月1日から同年10月31日まで、パリのシャン・ド・マルス(Le Champ-de-Mars)において、万国博覧会(L'Exposition universelle de 1878)が開かれました。本品はフランソワ=アルフレッド・ドロブが 1875年のサロン・ド・パリに出品し、次いで 1878年の万国博覧会でも展示されたカマユー(単色画)、「ピューラモスとティスベー」(Pyrame et Thisbé / Pyramus and Thisbe)を、パリのグピル社が美しい大判フォトグラヴュールとしたものです。

 オウィディウスはアウグストゥス時代の有名な詩人ですが、神話や伝説に表れる様々な変身譚を集成して謳った叙事詩集「メタモルフォーセース」("METAMORPHOSES" ラテン語で「数々の変身」の意)は、最もよく知られています。本品のテーマ「ピューラモスとティスベー」("PYRAMUS ET THISBE")は、「メタモルフォーセース」第四巻 55 - 166行に基づきます。物語の内容を知るには、このリンクをクリックしてください。





 本品には、桑の木の下に倒れて息絶えようとするピューラモスと、恋人ピューラモスに取りすがる少女ティスベーが描かれています。画面の左下隅にできた大量の血だまりに、ティスベーのヴェールが浸かっています。ヴェールの下に半ば隠れて、ピューラモスが自ら命を奪うのに使った短剣が見えます。

 ティスベーはピューラモスを激しく揺り動かしますが、恋人は目を閉じています。ピューラモスはティスベーの声を聞いていったん薄目を開けますが、再び力無く目を閉じて、帰らぬ人となったのです。ティスベーは「苦しいときには、アモル様が力を与えてくれるの。わたしは死んでしまったあなたに、どこまでも付いてゆきましょう」と死せる恋人に語りかけ、この後すぐに恋人と同じ短剣の上に身を投げ出して、自ら命を絶ちます。


 この版画は「フォトグラヴュール」(仏 photgravure)という技法で制作されています。フランス語「フォトグラヴュール」、英語「フォトグラヴュア」は、わが国でいう「グラビア」(フォトグラビア)と同じ言葉です。しかしながら「グラビア」が実際には輪転機による産業的オフセット印刷であるのに対し、アンティーク・フォトグラヴュア(古典的フォトグラヴュール)は手作業で製版を行う平版であり、両者はまったく異なります。本品においても、画面の縁から数センチメートル外側にプレート・マーク(平たい版が紙に押し付けられてできる長方形)が確認できます。

 フォトグラヴュールは現代の印刷物のような網点を有さず、無限の細密さを有します。また十九世紀の写真は言うに及ばず、現代の写真と比べても、極端に明るい部分から極端に暗い部分まで、明暗の階調を無段階の正確さで再現します。

 しかしながらフォトグラヴュールは単色の版画であるゆえに、色相が異なりつつも同じような明度の色が隣り合うと、境界を表示することができません。それゆえフォトグラヴュールにおいては、写真的プロセスによって金属板に像を写し取り、その金属板を酸で処理したのちに、版画家が彫刻刀やメゾチント用ロッカーを使って未完成の版に手を入れ、不自然に見える部分をなくします。

 しかるに本品の画面を注意深く観察しても、彫刻刀やメゾチント用ロッカーを適用した形跡は見当たらず、本品は彫刻家による手直しを必要としなかったことがわかります。単色のフォトグラヴュールにおいて、これは非常に珍しいことです。





 本品が彫刻家による手直しを必要としなかった理由は、原画の段階において既に単色であったからです。本品「ピューラモスとティスベー」の原画は、フランス北部、ノルマンディーのベルネにある美術館、ミュゼ・デ・ボザール・ド・ベルネ(le Musée des beaux-arts de Bernay)に収蔵されていますが、この作品は暗色の緑色絵具によるカマユー(camaïeu 単色の絵画)なのです。版画を絵画の複製と考えるとき、細密さと明暗の正確さにおいてフォトグラヴュールに勝る技法はありませんが、本品「ピューラモスとティスベー」は原画がカマユーであるために、フォトグラヴュールの唯一の弱点である色彩の齟齬も解消されています。アンティーク版画の全体を通して見ても、原画をこれほど忠実に再現する本品は、稀有な作例ということができます。


 「ピューラモスとティスベー」は、十九世紀後半のフランスで成功を収めた画家のひとりであるフランソワ=アルフレッド・ドロブ(François-Alfred Delobbe, 1835 - 1920)が、前半生の集大成として描いた作品です。ドロブは弱冠十六歳のときに、フランス最高の美術教育機関であるパリ高等美術学校(l'École nationale supérieure des beaux-arts, ENSBA)に入学した天才的人物ですが、同校での訓練に加え、トマ・クチュール(Thomas Couture, 1815 - 1879)とウィリアム・ブグロー(William Adolphe Bouguereau, 1825 - 1905)からも個人的に学び、ブグローからは神話を題材にした作品や肖像画に専念するよう指導を受けています。

 本品「ピューラモスとティスベー」は、フランス最高のアカデミー画家ブグローの教えに従い、また初期中世以来ヨーロッパの美術思想に一貫して流れる形態優先の考え方に基づいて、天才ドロブが持てる全力を傾注した重要な作品です。本品は画家ドロブが前半生の集大成として描いた作品であるゆえに、ドロブ個人にとっても極めて重要な里程標的意義を有します。それと同時に、形態よりも色彩を重視する印象派がヨーロッパ美術に革命を起こす前夜の 1870年代に、色彩よりも形態を重視する伝統的思想に基づいて制作された決算的作品として、ヨーロッパ美術全体にとっても極めて重要な意義を有しています。ドロブが 1875年に描いた「ピューラモスとティスベー」は、一見地味に見えるカマユーであるせいか、美術史を論じるどの文献においても特筆されていませんが、これはたいへん残念なことです。ドロブの「ピューラモスとティスベー」は現状よりもはるかに高く評価されるべき作品であると、筆者(広川)は考えています。





 本品は劣化しない中性紙に刷られています。そのため、およそ百四十年前のアンティーク版画であるにもかかわらず、たいへんきれいな状態を保っています。紙の上下の余白部分が少し波打っており、また数か所に薄いしみがありますが、保存状態は十分に良好です。紙の波打ちは余白部分だけですから、そのままでも気になりませんが、マットを使って額装すればまったく見えなくなります。

 版画は未額装のシートとしてお買い上げいただくことも可能ですが、当店では無酸のマットと無酸の挿間紙を使用し、美術館水準の保存額装を提供しています。上の写真は額装例で、外寸 40 x 31センチメートルの木製額に、緑色ヴェルヴェットを張った無酸マットを使用しています。この額装の価格は 24,800円です。

 額の色やデザインを変更したり、マットを替えたりすることも可能です。無酸マットに張るヴェルヴェットは赤や青、ベージュ等に変更できますし、ヴェルヴェットを張らずに白や各色の無酸カラー・マットを使うこともできます。


 版画を初めて購入される方のために、版画が有する価値を解説いたしました。このリンクをクリックしてお読みください。





フォトグラヴュールの価格 38,000円 (額装別)

電話 (078-855-2502) またはメールにてご注文くださいませ。




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