第二部 生物進化史

6. 顕生代の始まり

 五億四千百万年前になると、突然、顕生代が始まった。

 

 顕生代という言葉は、「ファネロゾウイク・イーオン」(Phanerozoic eon)という英語を漢字で訳したものだ。もっと易しく翻訳すれば「目に見える生き物の、長く続く時代」という意味になる。

 

 顕生代の顕は顕微鏡の顕で、「顕(あらわ)れる」と訓読みする。はっきり分かるように示される、という意味だ。「ファネロゾウイク」という英語の前半分の「ファネロ」は、「顕れる」というギリシア語が元になっている。後半分の「ゾウイク」は、生き物のこと。「イーオン」は、長く続く時代のこと。カンブリア紀以降の生物は数が多く、大型で、骨などの硬い部分も多いから、よくわかる化石として見つかり易い。そういう理由で、この時代は「ファネロゾウイク・イーオン」(目に見える生き物の時代)と名付けられ、「顕生代」(けんせいだい)と訳されたのだ。

 

 先カンブリア時代と比べると、顕生代の特徴は、弱肉強食の時代になったことだ。強い者は弱い者を追いかけ、捕まえて食べる。弱い者は必死で逃げる。強い者の間でも、争いは起こる。強い者は素早く追いかけるために、弱い者は素早く逃げるために、《前に口や目、脳がある細長い体》を手に入れた。顕生代の動物には、硬い外骨格(殻)で体を守る者も多い。これは先カンブリア時代にはなかったことだ。

 

 五億四千百万年前の動物に起こった劇的な変化と多様化は、カンブリア大爆発と呼ばれる。カンブリア紀の動物化石はカナダのバージェス頁岩(けつがん)動物群、中国の澄江(チェンジャン)生物群がよく知られている。

 

 似た動物どうしを大きく分けたグループを「門」(もん)という。例えば魚、両生類、爬虫類、鳥、哺乳類には脊椎(せきつい 背骨)があるので、ひっくるめて脊椎動物門という。現在の地球に生きている動物の門は、カンブリア紀にほとんど出揃ったと考えられている。

 

 《前に口や目、脳がある細長い体》というカンブリア紀のボディ・プランは、現代の動物にまでずっと引き継がれている。カンブリア紀から現代まで、弱肉強食の「顕生代」が途切れずに続いているからだ。カンブリア紀は顕生代の始まりだったのだ。





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