第二部 生物進化史

16. 肝臓と腎臓

 代謝(新陳代謝)について、及び肝臓と腎臓について説明する。

 

■ 異化と同化

 

 生きた細胞は、生命を維持するために異化(いか)同化(どうか)を行う。

 

・異化(カタボリズム catabolism)

 

 食べ物に含まれる物質、たとえばタンパク質や脂質などは、ひとつ一つの分子が数千個もの原子でできている。このように複雑な分子を、高分子(こうぶんし)という。タンパク質や脂質高分子化合物だ。高分子化合物を小さな分子に分解すると、エネルギー(力のもと)を取り出すことができる。動物が生きるためのエネルギーは、高分子化合物を分解することで得られる。

 

 高分子化合物を分解してエネルギーを取り出すいちばん簡単な方法は、食べ物を燃やすことだ。食べ物を燃やせば、大きな燃焼熱(燃焼エネルギー)が発生する。ただし体の中で火を燃やすことはできないから、動物は呼吸によって食べ物を燃やしている。呼吸とは、食べ物をゆっくりと燃焼させることなのだ。

 

 高分子化合物を分解してエネルギーを取り出す働きを異化(いか)という。呼吸は異化の代表だ。

 

・同化(アナボリズム anabolism)

 

 異化の正反対の働きを、同化(どうか)という。同化とは、小さな分子を使って、より大きな高分子化合物を組み立てる働きだ。

 

 アミノ酸を使ってタンパク質を組み立てるのは、同化の代表的な例だ。

 

 子供はこれから大きくならないといけない。大きくなるには筋肉や血や皮膚をもっといっぱい作らなければならない。成長が止まったおとなでも、体の中では年老いた細胞が毎日何百億個も死んでいる。細胞の寿命は一日から数日、最も長生きする脳の神経細胞でも約一年だ。人体の細胞は、一年で完全に入れ替わる。一年前の自分はどこにもいない。要するに子供も大人も、自分の体のタンパク質を毎日新しく作り続けないといけない。

 

 自分の体のタンパク質を作るための材料は、食べ物のタンパク質を使う。たとえば豆腐には大豆(だいず)のタンパク質がたくさん含まれていて、体を作るための良い材料となる。

 

 ただし大豆のタンパク質は人間のタンパク質と異なっているから、そのままの形で体に使うことはできない。もしもそのまま使ったら、体の一部が豆腐になってしまう。

 

 そこで登場するのが消化の働きだ。動物は消化によって、タンパク質を小さな部品(アミノ酸)に分解する。そして自分の体の設計図(遺伝子 DNA)通りに部品を組み立てて、自分専用のタンパク質を作る。「アミノ酸から自分専用のタンパク質を作る」この働きを、同化と呼ぶ。

 

 生物の体内では、異化と同化の両方が休みなく行われている。異化と同化を合わせて代謝(たいしゃ)、英語でメタボリズム(metabolism)という。

 

 

■ 代謝廃物の処理と、肝臓・腎臓の進化

 

 代謝をすると、不要な老廃物(ろうはいぶつ)が出る。この老廃物(代謝廃物)は、窒素(ちっそ)を含む窒素化合物だ。窒素化合物を体外に排出する際、水中に住む小さな生物なら、アンモニアとして排出しても構わない。アンモニアは有毒だが、水にとても溶けやすいので、大量の水に瞬時(しゅんじ)に溶けて、薄まってしまう。

 

 しかしながらデボン紀の魚以降の脊椎動物は、水中の魚や両生類も含め、すべて肝臓(かんぞう)腎臓(じんぞう)を持っている。肝臓と腎臓は、有毒なアンモニアをほぼ無毒な物質(尿素や尿酸)に変える処理をおこなっている。

 

 動物が陸上に上がると、アンモニアを薄めるための水が無いから、肝臓と腎臓は絶対に必要だ。デボン紀の魚はまだ陸上に進出していないが、代謝廃物の処理に関しては、陸上に進出する準備がこの時点でほぼ整っていたことになる。





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