第二部 生物進化史

1. 生物学は何を教えてくれるか

 地球上にいる生物の種類はあまりにも多くて、いったい何種類の生物がいるのか、はっきりとわかっていない。比較的高等な真核生物(しんかくせいぶつ 細胞に核がある生物)だけで、約870万種と推定されている。これまでに発見されたのは、その十分の一ほどに過ぎない。この870万種には原核生物(げんかくせいぶつ 細菌)が含まれない。細菌まで含めれば、数千万種の生物がいるだろう。

 

 昔の人は、自分が住む近所の生物しか観察できなかった。大きな船や飛行機が作られて、外国に行くのが簡単になると、自分の国では見られない珍しい生物を、夢中で採集したり観察したりした。昔の人は、珍しい生物、変わった生物の研究をすること、少し難しく言えば生物の多様性を研究することこそが、生物学の最も大切な仕事だと思っていた。

 

 しかし近年には、生物の多様性を研究するより、生物の共通性を研究するほうが面白いとわかってきた。たとえば進化の過程で「目」がどうやってできたのかは、難しい問題だ。いろいろな学説があったが、自信を持って答えられる学者は、これまで誰もいなかった。ところが最近になって、渦鞭毛藻(うずべんもうそう)という植物プランクトンとクラゲが、ほとんど同じ眼点(がんてん *)を持つことがわかった。「ほとんど同じ眼点」とは、眼点の外見と構造が似ているというだけでなく、渦鞭毛藻とクラゲの眼点が、ほぼ同じ遺伝子DNA **)によって作られているという意味だ。

 

 遺伝子はとても複雑なので、渦鞭毛藻とクラゲがたまたま同じ遺伝子を持っていることはあり得ない。クラゲの体内において、渦鞭毛藻の遺伝子とクラゲの遺伝子が、何らかのきっかけで合体した(遺伝子組み換え起こった)、と考えるほうが自然だ。これは動物が目を獲得した出発点を明らかにする大発見だ。

 

 このテキストでは、生命の始まりから進化がどのように進んだのかを説明している。生物の多様性よりも共通性を重視した説明は、最新の学説に基づく。人間は自分たちだけが偉いように錯覚しているが、進化の歴史を見れば、人間もまた多数の生物の一つに過ぎず、決して特別な存在でないことがわかるだろう。数万年後の人から見れば、現代の人間も進化の途上にある原始人だ。これから先、地球の生物がどのように進化してゆくのか、とても楽しみだ。

 

* 眼点 … 明暗を感じる原始的な目。物の形や色は分からない。

** 遺伝子とDNA(デオキシリボ核酸)は同じ物を指すが、「デオキシリボ核酸」(DNA)は、物質名。「遺伝子」は、DNAの役割に基づく呼び名。





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